料理漫画界の金字塔である『ミスター味っ子』界隈が騒がしい。

アニメの放送開始30周年を記念し、TOKYO MXでは第1話のHDリマスター版が放送され、AbemaTVでは平日昼間&深夜に2話ずつ放送中。
特典満載のブルーレイボックスの発売も控え、今再び注目を集めまくっているのだ。

視聴者の声に支えられた! 長期放送になったアニメ『味っ子』


主人公・味吉陽一は中学生ながら、母とともに亡き父が残した日の出食堂を支える名料理人。日本料理界のトップに立つ「味皇」との出会いから、数々の料理勝負に挑み、成長して行く物語。

少年マガジンで連載が始まったのは86年秋、アニメ化されたのは87年秋だから、かなり早い段階からアニメ化構想があったようだ。この時点ではコミックス5巻が発売されたばかり。なので、この辺りまでの話を生かす形で1話~25話までは原作にほぼ忠実な作りとなっている。

当初はここでアニメは放送終了予定だったという。
しかし、回を重ねるごとに反響は大きくなり、放送は延長を繰り返す。最終的に全99話の長期放送となったのだから、いかにその人気が高かったのかうなずけるはずだ。
アニメから入った筆者は、コミックスも買い揃えてどっぷりハマったひとり。そして、アニメと原作の世界観のギャップにだいぶ戸惑ったひとりでもある。

原作とは別世界!アニメ独自の展開でグルメバトルを盛り上げる


陽一の幼馴染のみつ子や、その弟のしげるはアニメオリジナルキャラ。オープニングで、みつ子が原作の世界(漫画のコマ)の陽一をアニメの世界に引っ張り上げる演出が示す通り、原作とアニメでは大きく世界観が異なるのだ。
ライバルたちとの料理対決が軸となるのは同じだが、アニメはオリジナルキャラ続出&オリジナルストーリー展開で料理バトル要素を盛り上げまくる。


原作では尻つぼみのまま終わった「味将軍」グループとの対決も、アニメではきっちり回収。懐刀である「七包丁」は、東大医学部卒のメスの使い手、10m近い巨漢の寿司職人、ロボコップ風の料理人など、ビックリ人間大集合状態。この振り切り方やケレン味が、アニメの醍醐味だ。

原作では薄かったキャラたちも濃い目の味付けでキャラが立ちまくり。単なる街の中華屋のオヤジや、ファミレスのマネージャーでさえもが圧倒的な存在感で陽一の前に立ちふさがるのである。
原作では「ブラボー!」「すばらしいぞう!!」とリアクションを取るだけだったモブキャラのオッサンが、アニメの解説&ナレーター役だった「ブラボーおじさん」となったのは、その最たるものだろう。


『味っ子』の代名詞的存在「味皇」の超絶リアクション


キャラ変ぶりで言えば、料理界のトップに君臨する「味皇」が筆頭で間違いない。
原作では寡黙で渋いイメージだったが、アニメでは破天荒な絶叫キャラとして、毎度毎度、過剰にぶっ飛んだリアクションでストーリーを盛り上げる。
「うー・まー・いー・ぞぉぉぉっ!」と叫びながら口から光線を放つのは序の口。海の上を走り、空を飛ぶ。花びらや天使が舞い、大阪城を突き破るまでに巨大化するなど、その美味さの表現は突き抜けまくっていた。

近年のバラエティで紹介されることもあり、『味っ子』初心者にとっては「味っ子アニメ=味皇」という認識の方が多いのではないか?

知ってる?『味っ子』が広めた料理の手法の数々


奇想天外な漫画チックな料理も登場するが、あらためて振り返ると、今となっては身の丈レベルのアレンジが多かったことに驚く。

第1話で披露した超極厚トンカツ。
火を通すために、高温&低温の油で二度揚げする調理法が好例である。
初バトルとなるミートソース対決では、陽一がスパゲティを半分に切って、ナスで巻いて食べやすくする秘策で勝利するが、この手法が美味しさに繋がるかはさておき、ナスとミートソースの相性が抜群であることを知らしめたのもこの漫画からなのかも知れない。
対戦相手の味皇料理会イタリア料理部主任・丸井シェフは、クルミを隠し味にすることでコクと風味をアップさせていたが、こちらも今ではいたって平凡。

そもそも「パスタ」なんて表現もなく、すべてが「スパゲティ」だった時代。「アルデンテ」をこの漫画で知った方も多かったのでは?
チーズインハンバーグ、スフレ風のオムレツ、焼肉のタレの隠し味に梨、カレーの隠し味にコーヒー、パイ包みのシチュー、温かくなる駅弁、餅を入れるお好み焼き、ステーキ皿のペレット(焼き石)などなど、当時珍しかった料理や手法の数々を広く普及させるバイブルでもあった。

全編に渡ってパワフル&エネルギッシュ!いい意味で昭和のアニメ感が満喫できる良作である。



※文中の画像はamazonよりミスター味っ子 いただきますBOX [Blu-ray]