聞くに聞けないトイレのマナー
このタイプなら「手」だとわかるのだけど……。
ニュージーランドは海外から多くの留学生を受け入れている。文化の違いはトイレの使い方にも影響していて、中国などしゃがみこむタイプのトイレ(和式/トルコ式)がもともと主流の国からやって来た留学生は、洋式トイレに不慣れな人が多いようだ。


わたしは以前、ショッピングモールの洋式トイレで便座の上に“靴跡”がついているのを見たことがある。そのときは、原因がわからなかったが、のちに新聞で、地元にあるオークランド大学のトイレでも同じことが起こっていると知った。清掃スタッフが「トイレがあまりにも汚い」と大学側にクレームをつけ、大学側が調べたところ、洋式トイレの使い方がわからず、便座に足を乗せて、和式トイレのようにしゃがみこんで利用している留学生の存在が明らかになった。中には、洋式トイレの使い方は知っているが、誰が使ったかわからない便座にお尻をつけるのは気持ち悪いという意図的な理由で、便座の上にしゃがみこんで用を足している人もいたのだとか。

こういった文化の違いを配慮して、オークランド大学では洋式トイレの一部を和式トイレに変えた。和式トイレの構想が公にされたときは、ニュージーランド人の学生たちがラジオやインターネットで、「スクワット式(和式)では足が疲れるので長時間は耐えられない」「足がガクガクしてよろけてしまいそう」「ここはニュージーランドだろ!?」などと不満の声が上がっていたが、いつの間にか沈静化した。
これが、移民大国であるニュージーランドの柔軟性なのだろうか。

ヨーロッパの公衆トイレで「洋式トイレの使い方」という説明書きが貼ってあるのを見たことがある。便座に腰かける絵や、使った後は水を流しましょう、などと丁寧に書かれてあった。学生だった当時は「ここまでしなくても、わかるだろう」と思っていた。しかし、実は、かくいうわたしも、26歳になるまで、洋式トイレの水を流すためのペダルは、“足”で押すものだと思っていた。「親も学校の先生も教えてくれなかった」と友人にその話をすると、「ペダルの位置で“足”ではなく“手”だとわかるはず」とたしなめられた。
トイレという密室のマナーだからこそ、説明書きは必要なのだと、心密かに実感したのだった。
(畑中美紀)