生演奏もなく、芝生の上に寝転がる!? 関口知宏ライブ
(上)このシャツは勝負服なんだとか(中)火口の様子(下)一曲だけギターの生伴奏がありました
コンセプトは「想像とリラックス」。主役を含め、本を読んでいても、絵を描いていてもいい。
そんな不思議ライブに行ってきた。

タイトルは「関口知宏 大室山LIVE 『新生』」。俳優の関口知宏さんがプライベートで企画したもの。ライブを支えるのは、日常別の仕事をしている彼の友人たち。会場はなんと火口。静岡県伊東市にある大室山。美しい山で、すり鉢のように窪んだ火口がある。入場無料で、チケットもなく誰でも入れるという。はっきりいって異色だ。行ってみるまではどんなものか想像つかないな、と思った。

俳優としてのイメージが強い関口さんだが、インディーズレーベルからアルバムを1枚出したこともある。最近ではNHK BSハイビジョンで放送されていた番組「列島縦断 鉄道12000kmの旅〜最長片道切符でゆく42日〜」で、旅をしながら作曲したり、絵日記を描いたりもした。
器用で多才な人なのだ。

暑い中になると思いきや、その日はあいにくの雨。リフトで山頂まで上がり火口に降り立つと、そこは見渡す限りの緑。ふわりとかかる霧。これから何が起こるのか? ここまで来てもまだわからない感じだ。

約200人の観客が集まった。関口さんのファンや地元市民など、老若男女さまざま。屋根だけの小さなテントの下に機材があり、そこに関口さんはいた。テレビからそのまま出てきたかのような印象。集まった人々はそこに向かって持参したビニールシートなどを敷いて地べたに座る。関口さんまでの距離はほんの数メートル。たまに関口さんの生声が聞こえてドキドキする。


ライブが始まり、スピーカーから音楽が流れる。関口さんはテントの下で機材を操作するのみ。生演奏はない。一般的にいうライブとはかけ離れた雰囲気。

曲の合間にはMCがある。関口さんいわく、これはMacのボタンを押して曲を流す「ポチッとなライブ」だという。曲はすべて関口さんがひとりでMacで完成させたもの。笛、ギター、ハープなど、できる楽器は自ら演奏しているという。

「わたくし、実は作曲家なんですよね。曲を作ってそのときは演奏してるんですけど、終わったらさっきどうやって演奏したのか覚えてないんです」

作曲家としてのライブを模索していた結果、こういう形になったそうだ。

大室山に初めて来たとき、これまで作ってきたものと今後作っていきたいものとがマッチングしたという。自分にとっての音楽を発表する場はここしかないと思ったのだそうだ。


大室山で曲を聴きながら寝転がることを想像していたという曲では、関口さんは雨も気にせずいきなり芝生の上にゴロリ。普段テレビでしか見ることのない人の無防備な姿にくらくらしてしまった。自由な人なんだろうなあと思う。ズボンのお尻部分が丸く濡れていたのが印象的だった。

観客も皆それぞれの過ごし方をしている。ビニールシートの上に寝転がっている人、スケッチブックに絵を描いてる人、ひたすらじっと想像をふくらませる人、関口さんを見つめるのに一生懸命な人、などなど……。

わたしも実は本を一冊持っていったのだが、曲の素晴らしさに気を取られ、結局数行しか読めなかった。オリジナリティあふれる曲たちからは、やさしさも切なさも感じた。想像力がふくらんで、我を忘れそうになった。

印象的なのは霧だった。まるで曲に合わせるかのように浮かんでは消え、消えては浮かぶ。気まぐれに降る小雨。
自然と音楽のコラボレーションを見ているよう。

日常から完全に離れた癒しの空間。このようなライブを思いつき、実行してしまったことに驚いてしまう。作曲家として、人間としての関口知宏ワールドを堪能した。

また大室山でライブをやりたいとのこと。そのときには、ぜひ皆さんにも体験してもらいたい。わたしも次は思いきり芝生の上に寝転がるつもり。(ヤマノウチマナミ)
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