キャベツは昔、丸くなかった……?
春キャベツの美味しい季節です。
やわらかく甘い春キャベツが出回る季節。

ところで、先日、ある児童書の欄外に、こんな感じの気になる一文を見つけた。

「キャベツは昔、丸くなかったらしい」

一切説明がなく、「らしい」という不確定さだけど、これはどういうこと? キャベツは昔、葉が伸びた状態だったのだろうか。

農林水産省に問い合わせると、
「単に品種が違うということでは? キャベツといっても、おそらくいろいろ品種がありますから、丸いものもあれば、丸くないものもあるのでは?」
とのこと。
さらに、独立行政法人農畜産業振興機構に聞いてみると、
「春玉と寒玉の違いとかでしょうか?」として、以下のような説明をしてくれた。
「ヨーロッパでは紀元前から栽培されていたケールから、ブロッコリーやカリフラワーなど、さまざまな野菜が生まれ、その中のひとつにキャベツがあったのです」
じゃ、「キャベツの祖先」が丸くなかっただけで、やっぱりキャベツは最初から丸かったのでしょうか……。

落胆していると、後に、担当者から改めて、「やっぱり野生種は丸くなかったようですよ」という電話があった。
そして、様々な資料を送ってくれたのだが、その一部『農学大事典』(養賢社)に、こんな説明を見つけた。

「デンマーク・イギリス・北フランス・オランダなどの西欧海岸、地中海岸および小島の岩上に自生する多年生ないし2年生植物で、結球性なく、葉は通常平滑でロウ質におおわれるがまれに短密毛を被る」
「日本への渡来は、大和本草(1709)にみえる所から江戸時代と思われるが、当時はハボタンといい不結球の緑葉カンランであって、その後観賞植物として植木屋の品質改良により現在世界に類のないハボタンを産んだが、これはカンランとは関係ない」
江戸時代でもまだ登場していないのか、「丸いキャベツ」。では、どこらへんから?
同じ項目に、続いてこんな記述があった。
「現在のカンランは明治以降に欧米から導入されたものである」

明治6年(1873)の資料には8品種が、明治19年にはすでに24品種が記載され、明治末から大正、昭和の初期にかけて次々と日本独自のキャベツ品種が育成され、「西洋野菜→日本の野菜」になっていったとあるが、やはり丸いかどうかの記述は見つからない……。
続いて、『野菜園芸大事典』(養賢社)を見ると、こんな一文が!
「結球性のキャベツが導入されたのは安政年間であるが、これは外人居留地(横浜や函館)で栽培され、明治に至った」
やっとでた、「丸いキャベツ」!!

さらに、JAよこすか葉山に聞いてみると、
「キャベツの野生種は結球性ではなかったんですが、大事な芽を守るために、様々な品種改良のなかから、できていったのだと思います。葉が丸まる理由は、植物ホルモンの影響だといわれているんですよ」
とのこと。

ちなみに、先の『野菜園芸大事典』によると、世界的には丸いキャベツ(結球性)についてはじめて記載したのは、1世紀。
おそらくはローマにおいて成立したものと考えられているのだというから、「昔、丸くなかった」といっても、「昔」も昔、あまりに遠い昔の話のようでした……。
(田幸和歌子)