「中年男性はあまり笑わない」のか
秀吉が、思わずニッコリした、その理由は……?
客席からランダムに審査員が選ばれる『ザ・イロモネア』など、お笑い番組を観ていると、ちょっと気になることがある。

それは「中年男性が笑わない」ということ。


タカアンドトシの『お試しかっ!』でも、ネタ披露前に芸人が客席を見て、「中年男性が多いな」とやや暗い表情をする場面があったし、20〜50代男性30人に、 芸人が見ていることを知らせず新ネタを見てもらい、おもしろいかつまらないかを判定する「新ネタお試しマーケティング」でも、中年男性はなかなか笑わず苦戦する様子が映し出されている。一般的に、性別、年齢によって笑いの頻度は異なるのだろうか。

そんな問いをぶつけたところ、日本笑い学会会員で、京都大学医学研究科の広崎真弓さんが、こんな興味深い調査結果を教えてくれた。

「国際ユーモア学会で、質問紙を使った、笑いの頻度に関する調査の発表を行ったことがありますが、そこでは女性のほうが男性より笑いの頻度が高く、年齢が高いほうが笑いの頻度が低いという結果がわかりました」
これは、ストレス調査などで用いられる質問紙の形式を笑いに応用したもので、18歳から80歳くらいまでの約1000人、男女半々を対象に行った調査だとか。
「中年男性の場合、笑うにはまず人とのコミュニケーションが必要で、会社の中で気を許せる人間関係がないことなどが理由として考えられます。また、男性の場合、笑いを『面白い』と感じても、表出することが女性よりも少ないこともあるようです」
ちなみに、おばあちゃんはよく笑うが、おじいちゃんはあまり笑わない傾向があること、高齢の男性がよく笑うシチュエーションとしては「孫や赤ちゃんと一緒にいるとき」という回答が目立ったのだそうだ。

また、関西大学社会学部の木村洋二教授は言う。
「木村理論では、笑いは、1)図式がズレて、2)回路がズレて、3)リアリティがヌケて、4)余剰出力がアフレる という4段階の流れからなると考えます。したがって、その人のもっている知識やこだわり、予期によって、また思考と感情の動作特性によって、違ったタイミングで異なった質や笑いが生まれます。性別や世代の違い、文化やお国柄によって『何をどう笑うか』が異なるのはそのためです。逆に、同じタイミングで同じこと/ものを笑ったということを(たとえば目を見交わして)知るとき、人は一瞬至福のような深いコミュニケーションを経験するのです」

さらに、「年齢・性別で笑いの傾向があるとしたらなぜか」「ジャンルによっては女性より男性、若い人より年配の人のほうが笑うこともあるか」という問いには、こんなご回答が。
「『中年男性』つまり企業や組織の中で我慢しながら頑張っている人は権威や威信(の空虚さ=ズレ)に敏感なので『風刺によく笑う』のでしょう。
『下ネタでよく笑う』とすれば、それは抑圧されたエネルギーがたまっているので、ハズレたときにアフレるエネルギー=笑いが多いのです(多くはつまらないズレですが)」

実は、木村教授はまさに、そのような様々な笑いのあり方――どのような人が、いつ、どのように笑うのか、を客観的データとして観測するための装置「横隔膜式笑い測定機」を開発したところで、これからいよいよ研究に取り組み、科学的データを取り、仮説をつくり、説明し、実証/検証するところなのだそうだ。

今後の笑いの研究にも注目したい。
(田幸和歌子)
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