読者の皆さんは子供の頃、昆虫採集をした記憶があるだろうか? あまり馴染みのない方も「ファーブル昆虫記」を読んだ記憶くらいはあるかもしれないが、このファーブル昆虫記、実は本国フランスよりも日本でのほうが断然有名らしい。ヨーロッパの人は虫の名前を知らない人も多く、それほど日本人は“虫好き”な国民なのだそうだ。
そんな虫好きの教授が「昆虫にかける情熱」だけで作った私設昆虫館が東京にあると聞き、ボランティアスタッフの方にお話を伺った。

■大英博物館をしのぐ数の昆虫コレクション!

それは今年3月に開館7周年を迎えた、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」。NPO法人「日本アンリ・ファーブル会」の理事長で、「完訳 ファーブル昆虫記」の翻訳も手掛ける奥本大三郎氏が自宅を改装し、10万点以上の標本を集めて作った私設記念館だ。日本全国から貴重な蔵書や標本の寄贈があり、なんと大英博物館のコレクションをしのぐほどの昆虫標本の数になっているらしい。ちなみに、「これ以上(昆虫標本を)家に置かないで!」と奥さんに苦情を言われ、泣く泣く寄贈をしてくる男性もいるそうです(笑)。

昆虫館は、「自然のなかで仲間と遊び、昆虫などの生き物に触れる大切さを再認識してほしい」「心豊かな自然人に育てるような環境を作りたい」という奥本氏の熱い思いから生まれた。
氏は「塾通いやゲーム漬けの日々が、子供たちを硬い殻に閉じこもらせ、感受性の貧しい、本当の美や楽しみを知らない“半大人”を形作ってしまっているのでは」と現代の生育環境について非常に心配をしているそうだ。

■昆虫好きには“天才”が多い!?

「じゃあ将来、子供には塾よりも虫採りに行かせた方がいいの?」なんて考えてみたところで、確かに昆虫好きに賢い人は少なくない。『ホンマでっか!? TV』でも、小学生のとき虫採りをしていた子供は、将来理系の天才になる……なんて話題が以前取り上げられていたが、奥本氏自身も東大卒のフランス文学者という学者肌。作家で解剖学者の養老孟司氏、脳科学者の茂木健一郎氏、ノーベル化学賞を受賞した福井謙一氏なども“虫好き”として知られている。エッセイストの阿川佐和子さんも、幼少期は“虫愛づる姫”だったと自身で語っているし、フィクションとはいえ、風の谷のナウシカもれっきとした「虫の姫」だ。女の子だって虫好きになって全然問題ないのかも!

養老氏によれば、「虫と向き合うと“目”が育ち、すると脳が非常に細かいものを認識できるようになる」そうで、その結果、日本人にしかできない、非常な精巧な作りのプロダクトが生み出されている……ということらしい。
筆者も夏休みの自由研究では大いにお世話になったが、「昆虫採集」が教えてくれることは、思っている以上に多いのかもしれない。

■「花鳥風月」の芸術センスも育つ!?

昆虫館では、数万点のコレクションすべては一般公開されていないが、1階の展示スペースでは、季節ごとにゲンゴロウやタガメ、カブトムシ、クワガタムシ、チョウやガの幼虫・蛹等の生き虫が展示されている。今の時期は、クワガタムシの成虫やカブトムシの幼虫に触れてもらうコーナーが人気だそうだ。大人でも、色鮮やかなチョウの標本などを見ていると驚きがいっぱいで楽しい。「花鳥風月」の言葉にあるように、日本の詩歌や絵画、図柄や製品の色彩などは、すべて自然の中から生まれてきたのだな……なんてことも感じさせられる。芸術センスだって、虫や自然に触れることによって大いに育ちそうだ。


敷地内には昆虫の餌になる樹木が並び、地下1階ではファーブルが育った南仏の生家が忠実に再現。ファーブル会のメンバーによる写真なども展示され、随時更新されている。通常時非公開の3階では、標本教室などのイベントも定期的に開催されており、「昆虫塾」の活動ではアゲハ採集会や昆虫教室も行われているので、子供と一緒に参加するのもおすすめだ。

入館無料ということもあり、開館時間は土日の13時~17時という限られた時間ながら、週末には全国から幅広い年代の人が訪れるそうだ。館長奥本氏のほか、12名ほどのボランティアスタッフの力によって運営されている、“虫好き魂”にあふれた昆虫館。夏に向けて虫の活動も活発になる季節。
子育て世代はもちろん、虫採りの楽しさを思い出したい方、虫好きな方は一度ぜひ訪れてみては?
(外山ゆひら)