報道で、「○○県○○市、無職の△△さん(80歳)宅が火事で……」などという表現を見たり、聞いたりするたび、なんとなく違和感を覚えたこと、ありませんか。

そんなことを感じる自分のほうこそ、余計なお世話だとは重々承知のうえで、70代、80代だったら、一般的には仕事を引退している人のほうが多いだろうし、「あえて『無職』と言わなくても……」と、ついそんな気分になってしまう。


「無職」という肩書きが悪いわけではないし、聞いた OR 見た人も、言われた本人も、別にどう思うわけでもないのだろう。
でも、学校に通っている間は、誰でも「児童」「生徒」「学生」であり、会社にいる間は「会社員」、アルバイトしているなら「アルバイト」、結婚している女性なら、何歳でもおそらく「主婦」という肩書きがつけられるはず。
どこにも属さない場合の肩書きとして、「無職」は端的で正しいのだろうけど、他の表現はないのだろうか。

ある大手新聞社の広報に聞いてみたところ、「会社としてではなく、記者として編集現場にいた個人として、参考までに」と前置きしたうえで、こんな説明をしてくれた。
「『無職』はあくまで職業表記のひとつです。記事を構成する際、『○○市の会社員○○さん』として、いつ誰がどこで何をしたか、5W1Hを端的に書くことが必要ですよね。
たとえば、80歳であれば、あえて無職と書かなくともわかるというのであれば、逆に、あえて隠さなくても……と思います。高齢化社会で、高齢で仕事をしている人も多いことですし」

もちろん記事の内容によって、80歳であっても、「元NHK職員」「元小学校教諭」「元警察官」などと記載される場合もあるわけだが……。
「たとえば、教育問題について論じるのであれば、現時点で無職であっても、経験談としてなぜこの人が出てくるのか説得力を持たせるために『元教諭』などの肩書きを用います。でも、そうした必要が特にないときは、仕事をしている人なのか、この人がどういう人なのか、端的に示すために『無職』と書きます。これには特段の意味づけはしていません」
あくまで「そのときの状況に応じて、ケースバイケースで必要な情報を届けるために、無職という肩書きが選ばれている」とのこと。もっともではある。


では、余計なお世話ついでに、「無職」にかわる表現は存在しないのかと聞いてみると……。
「『無職』という肩書きが望ましいか望ましくないかは、どこの新聞でも使っている表記ですから、ふさわしくないことはないはずです」

「○○市 隠居の○○さん 80歳」ではなんだか締まらないし、「○○市 悠々自適の○○さん 80歳」では、書き手の「主観」が入ってしまうし……。事実のみを端的に伝えるためには「80歳」でも「無職」の肩書きが必要なのかもしれません。
(田幸和歌子)