いわゆる「ゲリラ豪雨」をはじめ、今年は荒天の日が多かった。
とくに夏を中心に雷が多く、10月末には24日目の雷が観測され、88年ぶりに最多記録を更新した。


「雷のときに『くわばらくわばら』って言うでしょ。あれは、このあたりが元になってるんですよ」

兵庫県三田市での取材中、地元の人にこんな話を聞いた。
確かに雷が鳴っているときに「くわばらくわばら」と、呪文のように唱えることがある。
そういわれてみれば、なんで雷のときには「くわばらくわばら」なのか。そもそも「くわばら」って、なんだ? そして、それが三田市発祥になっているというのはなぜか。気になる。


三田市役所の生涯学習課にたずねてみると、
「市内にある、欣勝寺(きんしょうじ)というお寺、そこに伝わるお話が元になっているんです」
と、こんな民話を教えてくれた。


その昔、あわてんぼうの雷の子供が、雲の上から落ちてしまった。その落ちたところが欣勝寺にある古井戸だった。
欣勝寺のお坊さんが、それを助けてあげたことから、この周辺には雷が落ちることがなくなったという。
ここの地名が「桑原」。それで、雷が落ちないように、ここの地名「くわばら」を唱えるといいということになったというわけだ。


『三田の民話100選(上)』という本にもこの民話が紹介されていて、そこには井戸に落ちた雷の子と和尚さんとのやり取りが書かれている。

「お前みたいに悪さばっかりしてるやつは、ずっとそうしておるがいい」
「お尚さん、なんでこのくんだりで、良い米がとれるのか知っているか」
「百姓がよく働くからじゃろ」
「そればっかりじゃないわい。わいらがたいこをたたいて、じょうろでしっかり水をまくからだ」
「(中略)雷の鳴る土地は米がよくとれると言うな」

というわけで、「桑原には雷を落とさない」という条件で、雷の子は助け出してもらった。

<雷が鳴り出すと、人びとはかやの中に入って、
「ここは、桑原欣勝寺。くわばらくわばら欣勝寺」と唱えるようになった、とさ。>(『三田の民話100選(上)』)

三田市につたわるこの話の他にも、菅原道真が太宰府に流されたあと、京都では雷がよく落ちるようになったのだが、道真の領地だった「桑原」という土地には落ちなかったからという説など、他にも諸説あるらしい。


これからの季節はさすがに雷が鳴ることもそうないかと思うが、来年また雷が鳴ってきたら、「くわばらくわばら」と唱えてみると、あやかれるかもしれません。
(太田サトル)