鉄工所……それは鉄をナニしてアレする場所だが、もちろん、ナニとかアレの部分はまったくわからない! そんな未知の世界へ誘うラップやマンガが今、静かなブームを呼んでいる。たとえば、TBS系列の深夜番組『あらびき団』で披露された、モンスターエンジン西森による鉄工所ラップ。
工場で働く男たちの日常をリアルに表現し、番組内ではもちろん、ネットでも絶賛された。めちゃめちゃ渋くてカッコいいラップである。

切なささえ感じさせる鉄工所ラップに対して、青年マンガ誌『イブニング』で連載されている『とろける鉄工所』は笑いにシフトしているのが特徴だ。

夏は暑く冬は寒い工場で、鉄が溶けた火花(スパッタ)をビシバシ浴び、溶接の光で目を焼かれ、大きな荷物の下敷きでペタンコになるかもしれない……。危険いっぱいの工場の“現実”を、笑いの要素でぶっちぎって描いているのが『とろ鉄』のスゴイところ。恨み、つらみ、悲壮感ゼロ! でも、仕事へのアツい想いは感じさせる。


淡々と楽しんで働く北(ペー)さんや、「使う人間の事を考えて物作りせぇや!!」と怒鳴る班長の小島さんの姿には、仕事への愛情とプライドがにじむ。そんな彼らの嫁や娘は、毎朝弁当を作り、破れた作業着を縫い、働く男を支え続ける。「ボロボロ作業着ってね なかなかカッコええと思うん」なんて嫁に言われたら、作業着男は一撃でヤラれるはず!

実際に鉄工所で働いた経験を持つ作者の野村宗弘さんは、人気の理由を「善悪を決めずに日常を描いているからですかね……。(売れている)実感ないんですが……」と謙虚に語る。
「(溶接は)ぶちおもろいとは心底思いますけど、『若者よ! やってみい!』とは思って描いてません。自分が良いと思って作っている“製品”が、少しでも多くのお客様の宝物になったらうれしいなぁと思って描いております」とのこと。
職人らしい真摯なセリフだ。

全国の鉄工所を結ぶサイト「e!鉄工所がんばってるか通信」を運営する「鉄創庵」の横山文人さんからは、現場で働く人々の考えを聞いてみた。
「3Kとか『怖いお兄ちゃんが働いているんだろう』とか、あんまりいいイメージないのかなぁと思います。でも、世の中がITや個人投資のような無形のものに傾倒しているのに対して、有形のものを生み出しているんだという快感が幸せにつながるんですよね」

効率化とか財テクとか贅沢とか、いったん横に置いといて、とりあえず『とろ鉄』を読んでみてほしい。仕事に対する誇り、日々の小さな幸せ、家族の大切さを思い出せるかもしれないから。
(塩澤真樹/C-side)