昔は口に入れた瞬間、「すっぱい!」「ショッパイ!」と口をすぼめてしまうほど、塩気が強かった家庭の梅干し。

毎朝、祖母に「梅はその日の難逃れ(朝、梅干しを食べると、その日一日災いを免れる)」と言われ、酸っぱさに全身がしびれながらも、御守りにも近い感覚で口にしていたものだ。


一方、初めて甘い梅を食べたときには、まるでお菓子のようでビックリしたものだけど、近年、出合う梅干しは甘いものが圧倒的に増えている気がする。

デパ地下で売られている梅干しは、塩分6%、8%、10%、さらにハチミツ入りなど、まろやかなものが多く、スーパー、コンビニでは「梅味」の商品が近年非常に増えているが、これらも甘いものだらけ。

『NHKきょうの料理』では「昔ながらの、しっかりしょっぱい梅干」として塩分20%のものを紹介しているように、一般的には梅の重さの15~20%程度の塩を使う場合が多い。だが、近年は、家庭の梅干しも塩分10%という人は増えているのではないだろうか。

塩分控えめの梅は、なんといっても、食べやすさが魅力だが、「カビが生えたり傷みやすい」ことから、冷蔵保存が必要となるなど、難点もある。
そんななか、最近は「デザート梅干」なるものも登場。塩分を2%まで落とし、日本酒とリンゴ酢などで風味づけした「デザート梅干 夢」が人気の、神戸の梅干専門店「Kyun」に、きっかけを聞いてみた。

「もともと和歌山だけで梅の会社が1000~2000社あるなかで、紀州の南高梅だけを使用し、着色料や保存料を一切使わない梅干しをなんとか全国に広めよう と、この『デザート梅』を考えました。昔からのおばあちゃんが食べそうな梅干しとは違い、若い方、梅干しを本来食べない方をターゲットにしたものです」

同店では、塩分2%から、従来の塩分20%のものまで広く扱っているが、人気商品は、塩分控えめのものや、シロップで漬けこんだ甘い梅などだという。
「酸っぱいモノは苦手な人も多く、甘い梅のほうが、万人ウケするということはありますね。また、いまは健康志向の方が多く、塩分が高いと毎日召し上がるには気になるようですね。実際、塩分が高いほうが、疲労回復効果は本来高いのですが……」

ただし、いくら甘い梅の需要が増えても、「甘い梅干しなんて、梅干しじゃない!」という人が今もいるのも、事実。

「昔から甘いのが苦手という人もいますよね。そういう方は、今もやっぱり甘い梅は召し上がらず、『甘さを控えた減塩タイプ』を購入されています」

甘い梅は、口当たりが良く、確かに美味しい。でも、それはそれ。料理には酸っぱい梅干しのほうが使いやすい場合もあるし、なんといっても保存がきくし、ゾクッとするほど酸っぱい梅が好きな人もいる。

朝いちばんでは、身が引き締まるような酸っぱい梅干しを食べ、デザートには甘い梅干し……なんて使い分けるのも、アリかもしれません。
(田幸和歌子)
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