「たたんでくれてありがとう」

こんな言葉が目に飛び込んできた。カゴメのジュース『野菜生活』(200ml)を飲み終わり、パッケージをたたんだときのことだ。


写真にあるように、このメッセージはパッケージをたたんでみないと出てこない場所に書いてある。たたんだ人だけに贈られる言葉。なんてステキなんだろう! なんだか嬉しくて、ほっこりした優しい気持ちになった。

そこで、さっそくカゴメ株式会社の広報部に問い合わせてみた。この企画をした、現・商品企画部長の高野仁さんをはじめ、社員の布川浩一さん、大谷紗貴子さんに取材することに。

まず、このメッセージを入れた経緯をうかがってみると、入れはじめたのは2008年9月頃。
実は、その半年前に商品をリニューアルした際、最初は言葉ではなく、イラストを入れていたんだそう。

「『野菜生活』というブランド性を考えたときに、なにかちょっとした楽しみを提供したいと思い、たたんだときに、例えば、原材料のニンジンやカボチャなどのイラストが出てきたらいいのでは、と。そこで、各商品に9種類のイラストを入れたのがきっかけなんです」と、布川さん。

しかし、その後イラストからメッセージに変えたのには、ちょっとした裏話が。こういったパッケージデザインでは、表示に間違いがないよう、関連部門の複数の社員が表示をチェックする、専門用語でいう「読み合わせ」というタイミングがあるそうなのだ。そして、9種類もデザインがあると、9回分の読み合わせをやらなくてはならない。
その非効率さに、当時、読み合わせのメンバーだった大谷さんが気づき、高野さんに相談。そこから今のメッセージへと発展していったそう。

「たたんで捨てる、そういうことから少しずつ、リサイクルに近づいていけたら、というのは以前から考えていたんです。そこで、これは良い機会だと思い、なんとかお客様にたたんでもらい、廃棄物の容積を減らすスタートにしてもらいたいと、デザインをひとつに集約しながらも意図が伝わるようなメッセージを入れることにしたんです」と高野さん。

それから、大谷さんが考えた、「明日もがんばろう!」「心地よい毎日♪」「開いて(たたんで)ゴミ軽量!」「開いてくれた方へ。感謝。」など様々なコピー候補案から、3人で熟考し、最終的に決めたのが「たたんでくれてありがとう」だったとか。


ただ、このメッセージへのリニューアルは、あえて社内でも公表せず、3人でこっそりやったそうで、最近になり、このメッセージに気づいた社員から「びっくりした」などの声が届いているのだとか。

さらに、一般の消費者からは「小さな幸せをありがとうございました」、「さりげなく感謝の気持ちを伝えていて感動しました!」、「子どもが見つけて大喜びしていました」などといった手紙が届いたり、「お客さま相談センター」にも毎週1~2件ほど電話がくるそう。そして、高野さんはこう続ける。

「昔、愛知県のとある高校にいったときに、校内もきれいで、ゴミもきれいに捨ててあって、特に、紙パックがすべて、きちんとたたまれて重ねておいてあったことにビックリしたんです。すごいなあと、本当に感動して、この、『たたんで捨てる』という文化が日本に浸透するといいなと思ったんですよね。それに、実はこの200mlの紙パックを日本で一番多く販売しているメーカーが当社なんです。
そういう責任もなんかあるんじゃないかなとも思っていますね」

日常で出会った、ささやかな感謝の言葉。そこには、開発担当者たちの熱い思いが込められていたのだ。
(田辺 香)