そもそもテイスティングとは、ワインの状態が問題ないかを確かめるためにおこなうもの。コルク内部にカビが生え、そのカビの匂いがワインに移ってしまう「ブショネ」と呼ばれるトラブルなどをチェックするのが目的だ。自分好みの味かどうかをみるものではない。
だが、実際に味見をして「ノー」と言った経験がある人は少ないのではないだろうか。私自身は過去に一度だけ違和感を覚えて申し出たことがあるが、結局「こういう味のワインです」といわれて終了。それ以来、指摘したことはない。
基本的に客に出す前にソムリエもチェックしているので、品質に問題があることはほとんどないはず。となると単なる形式的なものに思えるテイスティングだが、どう振る舞うのがスマートなのか? あるレストランのソムリエに聞くと、
「こうすればよいという明快な答えはありません。ケースバイケースでしょうね」
たとえば良心的なレストランの優秀なソムリエの場合、ブショネと気づいたワインをそのまま客に出すことはまずないので、信頼できる店なら事前のテイスティングをパスするのも一案だという。ただこの場合、後でワインの味がおかしいと思っても我慢するしかない。
また、ブショネの匂いに対する感受性は人によって違い、訓練を受けたプロでも差があるのが厄介なところ。
「さまざまな種類のワインを飲みなれていない人にとっては、“変な味”に感じられるようなワインも世界にはたくさんありますよ」
また、あまり良心的ではない店、あるいはソムリエの場合、ソムリエが味の異常を感じていても、軽度ならそのまま客に出してしまうことも完全にないとはいえないようだ。
ちなみにブショネの程度は軽度から激しいものまで幅広いが、業界では20本に1本程度といわれる。別のワインバーのオーナーにも状況をたずねると、
「最近はスクリューキャップも増え、コルクの質を考える生産者も多くなってきたので、以前よりブショネの頻度は少ないです。 コルクワインの40本~50本程度に1本くらいでしょうか」
との回答。同バーではボトルチェックでブショネに当たった場合、客に出す前にブショネであることを伝えたうえでボトルチェンジしているという。
基本的には自分の舌を信じ、疑問に思ったときはやんわり聞いてみる。そんなシンプルな態度が満足にワインを楽しむコツといえそうだ。
(古屋江美子)