中学のときに愛用していたTシャツがあるのだが、それにはデカデカと「LOSER」とプリントされていた。当時は意味もわからず着倒していたが、日本語で「敗者」の意味だと知ったのは数年後のこと。
何とも、ゲンの悪い……。

このようにTシャツにメッセージや意味を含ませることは珍しくないが、時事ネタを速攻でデザインに盛り込んで発表し、人気を博しているブランド「スモールデザイン」のコレクションがどうにも面白い。

同ブランドのTシャツたち、そのデザインに反映されているナイフのように尖った批判精神がキモチいいのだ。
たとえば、テストを受けている学生のイラストの上に「KYOTO CUNNING UNIVERSITY」の文字をプリントしたTシャツ。言うまでもなく、“京都大学カンニング事件”を題材にしたものである。
他にも、タイガーマスクが高々とランドセルを掲げたデザインだったり、大相撲の力士の顔の頭上に「八百長くん」の文字をプリントしていたり……。
なんとも、痛烈な批判精神。

そこで、デザイナーである菊竹進さんに話を伺ってみた。このような制作活動を始めたきっかけは?
「ブランドを立ち上げたのは2004年なんですが、それ以前より美術活動を行っており、当時の作品にもやはり社会風刺を盛り込んでいました。それらは美術展で入賞もしていたのですが、美術作品は制作費がかかり活動が続けにくかったんです」
ちなみに賞レースで評価を受けた作品の1つが、女子高生のマネキンにドーム型のオブジェをくっつけて、上下左右に監視カメラを取り付けたもの。何とも大胆な造形であるが、これは当時「ロンドンの街中を一日歩くと、監視カメラに300回記録される」という報道を目にした菊竹さんがインスピレーションを受けて完成させたもの。

しかし、評価だけでは食べていけないのが人生。
また、菊竹さんの活動自体がなかなか世間に浸透していかなかったという現実もある。そんな時、広がりを見始めていたのがネット通販によるTシャツ販売だった。
「自分のやっていることをTシャツにしてみたら広まっていくのかなと考えたんです。それまではお金がかかるだけでしたが、方向性を変えてみたら利益も生まれ、それを次の作品につぎ込むことができるようになりました」(菊竹さん)

そうして起ち上がった同ブランド。こだわっているのは速報性である。
「早いものだと、ニュースを見てからすぐ作り始めて半日で仕上げます」(菊竹さん)
平均しても、完成するまで3日。
Tシャツ制作は菊竹さん一人で担当しており、だからこその素早さを誇っている。

そして、もう一つのこだわりは“デザイン性”。
「他でも時事ネタを盛り込んだTシャツは見ますが、『ファッションとしても成立させてほしいな』という思いがあり、そこに対しての皮肉でもあるんです」(菊竹さん)
クオリティに関しては、画像を見てもらえれば納得していただけるだろう。

そんな、他とは一線を画するスモールデザインのコレクションたち。反響もすこぶる良好で、「ツボにはまる人からは『どれも傑作だね!』という声をいただいています」(菊竹さん)。
常連のお客さんも多く、主に25~35歳くらいの方にファンが多いという。

「新聞やニュースなどに目を通している大人の方が多く利用されているようです。ファッションに興味のある子たちが直営店に訪れても、ポカーンとしてすぐ店を出て行っちゃうこともあります」

まさに、シニカルなTシャツの傑作群。しかし、実はそれだけではない。ここに紹介したいのが、今最も反響が大きいという『東日本大震災チャリティーTシャツ 日の丸』(税込み3,400円)である。これは、菊竹さんにとっても今までで最も自信の持てるTシャツだった。
「地震が起きてからお店にもお客さんが来なくなり、『この先、どうなるんだろう?』という心境になりました。
地震に対して、自分は何ができるのかと考えるようになったんです。また、いつも時事ニュースを扱っているので『地震に対して何もしていないのは、責任を果たしていないな』という思いも抱き始めました」(菊竹さん)

同ブランドでは時事ニュースに批判や攻撃的な斬り口で対峙するのがコンセプトであったが、この出来事に関しては異なる表現方法を選んでいる。
「家で私の子どもが日本地図のパズルで遊んでいたんですが、その時にすべての都道府県のブロックを抱きしめたくなったんですね。都道府県をギューっとして、それで日の丸ができたらいいなと思ったんです」(菊竹さん)
まさに、そのようなデザインのTシャツが出来上がった。

これぞ、メッセージTシャツの真骨頂である。
(寺西ジャジューカ)