思えば、昔はたくさんあったテレビの時代劇ドラマ。
「テレビの時代劇は確かになくなっていますが、映画ではいま、時代劇の勢いがかなりありますよ。東宝がアニメの実写化や戦隊モノなどに力を入れているのに対し、東映は40~50代をターゲットとして、確実に数字がとれる時代劇に力を入れています。近年は『武士の家計簿』が大ヒットしたほか、『最後の忠臣蔵』『十三人の刺客』『小川の辺』などもあり、今後公開予定の作品も多数あります」
映画の場合は、お金をかけられるという面はあるだろうが、それだけの違いなのだろうか。『水戸黄門』に携わってきたスタッフは言う。
「『水戸黄門』の場合、現代劇のホームドラマを見る若い層を取り込むべく、キャストの若返りで“テコ入れ”しましたが、視聴者がズレてしまった。おまけに、『視聴率』にこだわり、人情話がウケるとなると人情話ばかりにしてしまったのも、かえってワンパターンを加速させたように思います」
ところで、『水戸黄門』が落ち込む一方で、テレビの時代劇としては近年、フジテレビ系の『大奥』シリーズや、TBS系の『JIN-仁-』などがヒットしている。何故なのか。
「たとえば、菅野美穂さんが主演した『大奥』は、時代劇に恋愛要素を加え、そのバランスが見事でしたが、近年の『水戸黄門』にはそれがなかった。また、『大奥』の台本は時代劇の人じゃなかったですが、エキストラや先生など時代劇専門のスタッフを招き、正座の仕方から打掛けなどまで、徹底的に指導してきっちり作っていました」(前出のスタッフ)
また、一見 “トンでも時代劇”にも思える『JIN-仁‐』も、玄人ウケが良いそうだ。
「古い時代劇ファンから見れば『SFでは?』という声もありますが、時代劇スタッフには『面白いね』という意見が多いです。
新しい時代劇が育ってきているとはいえ、『水戸黄門』終了が象徴的であるように、正統派の時代劇はなくなってきている昨今。
時代劇経験のある俳優・スタッフが少なくなっているという問題もあるそうだ。
「時代劇経験のあるエキストラを使えるかで、 “群衆”の画が全く違ってきます。たとえば、今は畳のへりを平気で踏む役者さんがいたりしますし、照明さんに『あかりをつけて』と頼むと、時代劇の場合は行燈のことなのに、天井の電灯をつける人がいる。時代劇の所作や殺陣は、長年経験を積んで初めてできるものですが、時代劇の連続ドラマがなくなってきたことで、経験できる場が減ってしまい、役者もスタッフもなかなか育たないんです」
また、近年は藤沢周平などの「しっとり&暗い」時代劇は増えているものの、「チャンバラ」は「人殺し」ととらえる人が多く、テレビと視聴者側との“お約束”が成り立たなくなってしまったという背景もあるそうだ。
子どもの頃は父親の見る時代劇に「また時代劇か~」と悪態をついていたけれど、なくなってしまうのは、やっぱり寂しいもの。
王道時代劇の復活を望みます。
(田幸和歌子)