少し前の話なのだが、今年の正月、京都府にある水渡(みと)神社で、本殿(重要文化財)の賽銭箱が丸ごと盗まれるというニュースがあった。残念な話だが、多くの神社仏閣では、賽銭泥棒に悩まされているようである。


このような時代背景の変化とともに、賽銭箱も日々進化を続けている。昔は木製の賽銭箱が普通だったが、最近では重くて頑丈な、ステンレス製の賽銭箱もよく見かけるようになってきた。

安全な賽銭箱を求めて、様々な賽銭箱メーカーに取材を試みていた矢先、ある賽銭箱関係者から、「最近は、金庫を作っている会社さんが賽銭箱を作ることもありましてねえ」という話を聞いた。確かに、お金を安全に管理する、という意味では、金庫メーカーは最強の賽銭箱メーカーにもなり得る。

そんな、金庫メーカーが作る賽銭箱を持つ神社の一つが、広島県の高尾神社である。金庫型賽銭箱について、宮司さんに話を伺ってみた。

宮司さんによると、「導入したのは昭和60年頃」とのこと。「県内のある神社を訪問した際、一風変わった賽銭箱を見かけたので、話を聞いてみましたら、熊平製作所という金庫メーカーが作ったものだということを教えてもらいました」のが導入のきっかけだったそうだ。ちょうど、高尾神社でも賽銭箱を新しくしようとしていたところであり、熊平製作所に製作を依頼をすることにしたのだそう。

「ただ、私が見た賽銭箱は、やや無骨な印象がありましたので、より賽銭箱に近いものを作りたいと思い、自分で設計をしまして、熊平製作所さんと相談し、作っていただきました」という点、宮司さんの賽銭箱にかける情熱がうかがえる。

この賽銭箱は、参拝者から見れば普通の賽銭箱に見えるのだが、実は側面に取っ手がついており、こっそり金庫っぽい雰囲気を残しているところが特徴の1つである。

25年以上前に設置されて以来、大きな事故も無く、今まで参拝者の賽銭を守り続けてきた金庫だが、設置当初は、「賽銭を入れたときの音が、賽銭箱っぽくない」という問題があったらしく、多少の懸念があったらしいのだが、今では宮司さんも参拝者もその音に慣れ、「大変気に入っております」とのこと。


ただ1つの問題としては、ものすごく重いということ。「行事の都合上、年に2回、賽銭箱を移動させるのですが、そのときは10人掛かりで持ち運びます」とのこと。とはいえ、この重さが賽銭箱の安全性にもつながっているわけである。

神社仏閣には、賽銭箱以外にも、様々なテクノロジーが導入されているらしい。例えば、各神社には、祭祀(さいし)の対象、中心となる「ご神体」というものがあるのだが、このご神体が、火災などの災害により燃えたり失われてしまうことがある。このようなことがないように、災害時にもご神体が守られるよう、ご神体用の「金庫」なるものを導入している神社もあるらしい。

昔から変わらずそこにある神社仏閣も、見えないところで、時代とともに変化をしているのである。
(エクソシスト太郎)
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