夕暮れ時の、とある山手線の駅前。キーボードを弾きながら女の子が歌っている。
誰だか知らないけど、癒し系のとてもきれいな声をしている。彼女のそばには「宮崎奈穂子 11月2日 日本武道館公演決定」という看板が。……え、武道館って、あの武道館ですよね? 

彼女は2007年のデビューから路上ライブを中心に活動し、CDもその場で手売り販売しているというシンガーソングライター。どうやって、15000人も入る武道館への切符を手にしたのだろうか? 失礼を承知で、話を聞いてみた。

「私の所属事務所の企画で“武道館サポーターズプロジェクト”っていうのがあって。15000人のサポーター(ファンクラブ会員のようなもの)を集めると、武道館公演ができるんですよ。
それに参加を決めてからはほぼ毎日路上に出て、ライブだけじゃ間に合わないので自分でチラシを配ったりしてました」

長い時には合計12時間近く、路上で歌うこともあるという。選曲は「優しい青」などのオリジナル曲のほか、イルカの「なごり雪」や長渕剛の「乾杯」など懐かしい曲から、スピッツの「チェリー」、スタンダードな合唱曲のカバーまでとさまざまだ。

そんな路上での思い出を聞いたところ、最初に挙げたのが「駅の階段で機材を一段ずつ上げていたら、すれ違った方がわざわざ戻ってきて運ぶのを手伝ってくれたこと」。うーん、細かすぎる! が、それもそのはず、彼女はキーボードやアンプ、手売りのCDなどをすべて自分1人で持って移動している。大荷物すぎて、バスの運転手に「家出娘は乗せられないから」と、乗車を断られそうになったこともあるとか。

声のよく通る彼女の歌に立ち止まる人は多い。
特に仕事帰りのサラリーマンや就活中の学生が多く、涙目でじっくり聴いているという印象だ。声や曲をほめてくれる人もいるが、多かったのが「頑張ってるみたいだから応援するよ」という言葉だったとか。プロジェクトを始めて約1年で、サポーターズの人数が15000人を突破。その日集まっていたお客さんとは、泣きながら喜んだそう。

武道館が現実のものになった今は、路上ライブのほかにさまざまな企業を訪問してのミニライブなども行っている。路上のお客さんや企業スタッフとふれあう中で、彼女はこんなことを考えているのだそうだ。


「私は別段きれいでも、すごく歌がうまいわけでもない。世の中には私と同じように自分に自信がなくて、自分の可能性をもとからあきらめてる人って多いと思うんですよね。でも、私みたいな普通の人が武道館をやるっていうありえない話もあるんだから、“僕の人生も捨てたもんじゃないかも”とか“私ももうちょっと頑張ってみよう”っていう風に思ってもらえたらいいなって」

不景気の影響からか人もなんだか小さくまとまりがちな昨今、彼女の姿に共感したり、励まされる人が多いのかもしれない。もし街角で彼女を見かけたら、あの居心地のいい歌声に耳を傾けながら、自分の夢や人生について考えてみるのも悪くないんじゃないだろうか。
(古知屋ジュン)

宮崎奈穂子LIVE「Birthday Eve~路上から武道館へ~」
日時:11/2(金)19:00 会場:日本武道館
※チケットの予約はBirthday Eve特設サイトまで