長崎県のお盆と言えば、精霊流しが有名だろう。精霊流しとは、初盆を迎えた故人の家族や町内の方々が、故人の霊を弔うために行う伝統行事である。
盆提灯などで飾った手作りの船を作り、街中を通って海へ流すのだ。そこで鳴らされる爆竹や鐘のけたたましく響く音は、県外の人にとって驚かざるを得ないほどの迫力。この音は、魔界との関係を音によって断つ(通説多々あり)という意味を含んでいるという。

爆竹を鳴らしながら、派手なお祭りのような雰囲気で故人を弔うという精霊流しもさることながら、長崎県民のお墓参りも大変個性的だ。というのも、長崎県民は、先祖の墓前で、花火をしたり宴会を繰り広げたりするのである。

長崎県民にとってお盆の墓所は、親戚縁者たちの集いの場である。
家紋の入った提灯の火がぼんやりと夜を照らす中、親戚同士が飲食をしながら、故人の話や近況を語り合うのである。その傍らでは、子ども達がロケット花火をして楽しむというのがお盆の伝統スタイルなのである。

一般的にお墓参りというと、太陽が出ていて明るいうちに行くもの。しかし、長崎県民にとってお盆のお墓参りは、日が暮れてから行くのが基本。持ち物は、お酒がたっぷりと入ったクーラーボックスに花火や爆竹だ。
そのような習慣があるからか、長崎県にある多くのお墓には、人が腰掛けることができるベンチが完備されている。
他にも、お墓に門があったり、スペースが広くとられていたりと、お盆に親戚一同が長居できるための工夫が凝らされている。

長崎に居る女性Yさんは、「爆竹をやっても怒られる事はないし、むしろ、“もっとやれ”みたいな感じ」と状況を説明してくれた。
子供の頃から、「夜のお墓は楽しい場所だ」という概念が植え付けられていれば、肝試しを夜のお墓でやったとしても、怖くはないのだろうか。長崎県出身の会社員Hさんに聞いたところ、「お墓が怖いなんて気持ちは全然ないですね。むしろ、暗いところが怖いとさえ思わないかも」との回答が。

夏の夜のお墓と言えば、「ゲゲゲの鬼太郎」のように、オバケがいっぱいいるイメージがあり、どことなく薄暗くひんやりとしていて怖いという印象がある。
しかし子供の頃から、大人達が酒盛りをわいわいとやっている中で花火をして育つ長崎県民にとっては、お墓が肝試しスポットとして使われる事は理解しがたいことなのかもしれない。この夏、肝試しイベントには長崎出身者に同行してもらうことにしよう。
(あらみり)