人生は登山のようだと言われる。苦労と努力の末、頂きに達し、広がる風景を眼下に達成感を味わうもの。
しかし、誰しもそんな真面目な性格を持ち合わせているわけではない。楽して最も高い山に登れたら! 世界的なアルピニストを多数輩出している欧州に、じつはそういう山が多く存在する。欧州各国の楽して征服できる最高峰を紹介します。

■ドイツ
欧州でも登山が盛んな国の一つ。スイスにあるアイガー北壁の登攀に成功したアンドレアス・ヒンターシュトイサーなど有名登山家も多い。同国南部オーストリアとの国境にはドイツ・アルプスがはしり、夏の登山シーズンには多くの人でにぎわう。
ドイツ最高峰ツークシュピッツェ(2962m)は、そんなドイツ・アルプスの一角にそびえ立っている。アルプス山脈に踏み入り頂を目指すことは、さぞかし忍耐が必要かと思いきや、山頂までの道のりはとても簡単。麓の駅から登山鉄道に乗れば、あっという間に征服へ。お値段48ユーロ(4800円)。ただし最後の数mは、崖のような斜面を自力で登る必要あり(登山経験も必要)。

■ベルギー
金と科学の力には頼りたくない。
楽はしたいが、あくまで自分の足で登りたいという欲張り派はベルギーへ。同国最高峰は、南東部オランダとドイツ国境近くにあるボトランジュという場所。標高694m。台地にある一地点であるため山を登るという感じはない。ハイキングしていたら着いちゃったという気軽さ。最も標高が高い場所には、高さ6mの階段状に建てられた構造物が設けられていて、一瞬だが「登る」という行為は感じられる仕組みになっている。
自然の標高694mと人工の標高6mを合わせて、ぴったり700mの登山。几帳面な人向き。

■オランダ
ここまで来たら高みを目指さず、徹底的に下を目指そうというあまのじゃくはお隣オランダへどうぞ。同国南部、ベルギーとドイツ三カ国の国境が合わさる場所にオランダ最高峰ドゥリーランデンプントはある。標高332m。アルプス山脈を擁するドイツからすれば全く眼中にない存在。
低地が広がるベルギーからも最高峰の栄誉を受けられない場所だが、オランダではチャンピオン。鶏口牛後というか、そういう人生もアリだと思います。

■デンマーク
下には下がいる。デンマーク最高峰は170.86mのモレホイ。ベルギーやオランダの場合もあやしかったが、もはや山の面影は全くない。ここまでくると「最高峰」なんて称号はどうでもいいんじゃないか、と思えてくる。
しかしデンマーク人にとっては重要らしい。同国では最高峰の名誉を巡って争いが起きていたのだ。モレホイ以外に我こそはと立候補したのがユーディング・スコウホイ(170.77m)、アイア・バウネホイ(170.35m)の2カ所。結局2005年に国が裁きを下し、測定の結果モレホイが最高峰となった。どちらにせよ、どれも手軽に征服できるので奇特な方はぜひどうぞ。日本で例えると、富士山(3776m)、北岳(3193m)、奥穂高岳(3190m)と標高の高い順に3峰を登頂したことになる。


■モナコ
丘みたいな最高峰は嫌だ。世界に誇るアルプス山中にあり、なおかつ自分の足で登りたい。しかし楽をしたいという、どうしようもなくわがままな人はモナコへ。モン・アジェルという山の斜面、フランスとの国境にあるシュマン・デ・レヴォワールという道が最高峰。標高161m。モナコのどこがアルプス山中の国かと思うかもしれないが、同国はアルプス山脈が地中海へ落ち込む南西端。他の内陸国の標高にはかなわないが、れっきとした同山脈を構成する国の一つだ。眼下にはモナコの市街地が広がる。金銭的に世界の最高峰となった富豪たちの邸宅を、地理的な最高峰から見下してみよう。登り詰めた人のみ見られる景色がそこにある。

これまで挙げた最高峰の他にも、欧州にはリトアニアのオークトヤス(294m)などあるのだが、日本からだとその国へ行くこと自体、乗継ぎなどで少々不便なので割愛しました。あくまで「楽して」登れる山々。ちなみに世界で一番低い最高峰はモルディブの標高2mだそうです。
(加藤亨延)