欧州では雨が降っても傘を差さす人は少ない。現地を旅行したことがある人は、それを不思議に感じたこともあるはずだ。
記者は英国とフランスで生活した経験があるが、どちらの国でも傘を差す人は多くなかった。

例えばパリで、取引先に向かっていると思われるビジネスマンが、昼間スーツをずぶ濡れにして街中を歩いている。雨の日に買い物に行くと、ご婦人がシャワー上がりの様に髪から水を滴らせ、店内へ入ってくる。傘という文明の歩みとほぼ同じ長さの歴史を持った、シンプルかつ有用な道具があるのに、なぜ彼らはそれを使わないのか。

もちろんフランスは天候が変わりやすく、雨が降ってもしばらくすれば止むことが多いので、いちいち傘を持ち歩くのが面倒だということもある。ニュースで流される天気予報でも「晴れ時々曇り時々雨」という、日本から考えると天気予報とは呼べないような全ての可能性を記した予報マークが、ほぼ全国を覆っていることも日常茶飯事だ。
空気も乾燥しているので濡れても日本よりは乾きやすい。しかし傘を差さない理由はそれだけではない。フランスについて言えば子供の時に経験する、ある規則が関係していた。

じつはフランスの小学生は、傘は尖っていて危険であり他人を傷つける恐れがあるという理由で傘を学校で使えない。したがって子供たちは雨が降るとレインコートを着たり、そこまで雨が激しくない時は服のフードを頭に被ったりして済ませる。このような状況で育つので、大人になり雨が降ったところで傘が無くてもそれほど気にならない。


傘以外にも日仏で違いはいくつかある。例えば日本では登下校は生徒だけで行われるが、フランスでは親が必ず子供を送り迎えしなければならない。事情があり行えない時はベビーシッターなど代わりの人に頼む。よって下校時になると、校門の前には多くの親が集まり子供が出てくるのを待っている。さらに小学校は基本的に水・土・日曜休みの週4日制だ(ただしパリは来年度から水曜が登校日になる)。その分、平日1日の授業時間は日本より長い。


学校のテストでは鉛筆が使えない。筆記具は黒か青のボールペンと決められている。日本人から見ると欧州の人が皆ボールペンを使うイメージがあるのは、学生の時からのこういう経験にも影響されているのだろう。子供の時に身に付けた習慣は大人になってもなかなか変わらないのだ。
(加藤亨延)