日本だけではなく世界各地からもたくさんの人が訪れる、直島(なおしま)。みなさんはご存じだろうか? 瀬戸内海に浮かぶ外周16キロの小さな島で、住民約3200人ののどかな島だ。
雑誌などでは瀬戸内国際芸術祭や「アート」と「自然」が融合する島として取り上げられることも多い。

私は関西人だが、周りの友人に聞くと「知らない」という人もいた。だが、国際的アーティスト・草間 彌生さんの「赤かぼちゃ」の写真を見せると「直島」と結びついた人もちらほら。冒頭で世界各地と書いたが、直島の町を散策していると外国人に出会う率が非常に高い。慣れない日本語と悪戦苦闘しながら電車・フェリーなどを乗り継いで直島にやってくる。その魅力を何人かの外国人にインタビューしてみた。


アメリカから「直島アートツアー」で訪れた団体旅行客(60~70歳代)約15人に遭遇。米国 Conde Nast 社「Traveler」誌 2000年3月号の特集で、直島は「死ぬまでに行きたい場所」としてパリやドバイと共に取り上げられたことがある。お目当ては世界的に有名なアーティスト、ジェームズ・タレルによる作品や、そのほか数々の現代アート、安藤忠雄の建築だそうだ。外国人ガイドによると「現代アートが好きな人には人気のツアーで、直島の自然が美しく、年配の人もゆっくり流れる時間の中でのんびり島を周ることができ喜ばれている」という。また、有名口コミサイトの評価が高いという話もあった。

「旅行の目的は、京都でも東京でもなく直島」というフランス人一家。
「有名なフランスの雑誌にも日本のお勧め旅行先は『直島』と載っていて、ずっと来たいと思っていた」と、その雑誌の切り抜きを興奮気味に見せてくれた。ベルギー女性も目的は直島。「すでに島を一周したが、地中美術館(*1)内のモネ『睡蓮』が忘れられず、もう一度戻る」と感動しきりだった。

NPO法人直島町観光協会の藤井さんによると、「直島を訪れる外国人旅行者の正確な数字は分かりませんが、体感的にはここ数年、ずっと20%~25%を維持しているように感じます。案内窓口に質問に来られる方の3~4人にひとりは外国人の方という日も少なくありません」

話を聞いた外国人は、ドイツ、台湾、フランス、アメリカ、オランダ、韓国、ベルギーと国籍も多様。「ヨーロッパからはフランス、アジアは韓国、ユーラシア以外ではアメリカからのお客様が一番多いです。
韓国では、ここ3年で取材や旅行代理店からの問い合わせが増え、団体旅行のお客様も沢山こられています」(藤井さん)。外国の旅行者たちが口を揃えるのは、アートの素晴らしさはもちろんのこと、島の人たちのもてなしや自然の壮大さ、景観の美しさだった。

「海外で人気や実績のある建築家の建物やアート作品があり人気を得ているのは事実ですが、アートの島という一面だけではなく、直島の多様性が多くの外国の方に受け入れられているのではないかと思います」(藤井さん)

外国人に人気の旅行ガイドブック「ロンリープラネット(Lonely Planet)」のライターが紹介する「直島」を訪れる4つの理由を読むと、1・世界的に有名なアート作品と建築、2・草間彌生さんの「赤かぼちゃ」や「南瓜」、3・007「赤い刺青の男」記念館(原作小説に直島が実名で登場したことをきっかけに建てられた資料館)4・本州の喧騒から離れて静かな環境に身を置き、「ベネッセアートサイト直島」の本来の目的である「よく生きる」ことを感じることができる、とある。

およそ100年前、直島は農漁業の不振で村の財政が逼迫し、銅製錬の工場(現在の三菱マテリアル株式会社直島製錬所)を誘致し、瀬戸内の島の中でも経済的に発展。約50年前、町長に初当選し、その後連続9期務めることになる三宅親連氏が打ち立てた町づくり構想が、現在の直島の礎になっているという。

「町の北部を製錬所中心の産業エリア、中央を生活&教育エリア、南部を瀬戸内海国立公園を活かした文化・リゾートエリアの3つに区分してそれぞれを発展させるという青写真でした。
そして25年前、直島町と福武書店(現ベネッセホールディングス)の邂逅によって生まれた、『直島南部一帯を人と文化を育てるエリアとして創生する』という『直島文化村構想』が現在のベネッセアートサイト直島(*2)の活動のルーツとなっています」(藤井さん)

新しいものを積極的に取り入れる反面、古き良きものも残す。役場のある本村地区は戦国時代に成立したミニ城下町で、文化財や立派な屋敷なども残っており、そのいくつかはアートや古民家カフェとして私たちに直島の別の表情を見せてくれる。そして、製錬所の金の生産量は東洋一なのだそうだ。

直島に点在するアートは、建物の構造から自然の光を感じ、体の感覚が研ぎ澄まされて、日々変わる自然と芸術の融合に驚きの表情を見せてもらえる体感型のアートが多い。ひとつの作品を見ると、次の作品にはどんな工夫が施されているのかとワクワクする。詳しい作品の内容は省略するが、是非島に来て体感してほしい。
アートが手段となり島の生活や文化、歴史などとうまく共生し、直島の素晴らしさを伝え人の心をとらえて離さない。旅行者が帰国後、その感動を共有し、口コミで「直島」の存在が広がっていくのも当然のことなのかもしれない。
(山下敦子)