イチョウが色づく季節。紅葉は美しく、実は食べると美味しいが、とはいえ、少々悩ましいのは落ちたギンナンの臭いである。


それにしても、公園や神社、学校などのイチョウはギンナンが臭うのに、原宿・表参道などのイチョウは臭わない。何故なのか。イチョウには雄の木、雌の木があることが知られているが、街路樹などには雄の木のみを植えているということだろうか。そもそもイチョウの雌雄の見分け方とは? ギンナンの結実について研究・調査している岡山県農林水産総合センター森林研究所に聞いた。

「雄の木と雌の木の見分け方は、正直なところ、ないんです。一般には『枝のつき方が鋭角か鈍角かの違い』などという説もありますが、それも都市伝説のような不確かな情報で、確実には開花時期に雄花か雌花か、『花』を見ないとわからないんですよ」

なんと! 花がつくときには、実もなるわけだから、そこで雌雄がわかっても手遅れだったりするだろう。
見分け方がないとすると、美しいイチョウ並木が臭わないのは、偶然の産物なのか。
「いいえ。街路樹の場合は、やはり実がなると大変ですから、もともと雄の木を植えています」

もともと雄の木? 見分け方がないのに?
「もともと雄雌がわかっている状態で、実が落ちない雄の木だけを選び、接ぎ木や挿し木をすることで、クローンを作るんです」

なるほど、「雄」の木からクローン技術で増やしているということだったのか。

ところで、雄と雌は、かなり離れた距離でも実がなると聞くけど、どのくらいの距離で結実するのか。
「イチョウは『風媒花』といって、ヒノキやスギと同じく風で花粉が運ばれるものです。花粉は数キロ離れていても受精することができるので、たとえば庭に雌の木だけ植えていても、飛んでくる花粉で受精し、結実するということがあるのです」
つまり、周囲に雄の木が全く見えていない場所でも、実がつくわけで、ロマンチックな遠距離恋愛のようである一方、動物などと違って、雌の木の場合は「相手が全くいないように見える状況でも結実する可能性がある」ということだ。


ところで、実ができるのは、樹齢何歳くらいからなのか。
「雄花の着生は11~12年で、雌は5~8年とか6~7年とか言われます。いずれにしろ雌のほうが早いんですよ」
雌のほうが早いなんて、人間の成長みたい……。
「ただし、実から地上に落ちて種になり、自然に生えたものは、実ができるまで25年くらいと言われています。接ぎ木や挿し木をすると、枝自体がもともと年数を経ているため、実が早くなるんですよ」

また、実ができるには、雌と雄は1対1の関係が必要というわけではなく、雌の木5本くらいに対して雄の木1本で十分だそうだ。遠距離かつハーレムなのだ。

おまけに、イチョウは樹齢が長いことでもよく知られている。

遠い距離を越えて実を結び、長く生き続けるイチョウの生命力の強さを思うと、「ギンナン、臭い」ばかりの感想を持つのもなんだか無粋だなあと思うわけです。
(田幸和歌子)