日本のこけしとロシアのマトリョーシカ人形は、もともとコレクターの多いアイテムとして知られている。近年は特に若い女性の間で熱い注目を集めていて、こけしマニアの女性=“こけし女子”と呼ばれていたり、マトリョーシカは実物だけでなくそれをモチーフにした雑貨やステーショナリーなども豊富に出回るようになった。


日本とロシアを代表するこの民芸品の人形を組み合わせて扱うお店で有名なのが、2009年に鎌倉の長谷にオープンした「コケーシカ鎌倉」

詩人であり写真家の沼田元氣さんがプロデュースするこのお店では、販売と並行してこけしの魅力をディープに掘り下げた『こけし時代』という雑誌を編集・発行。こちらも独自の切り口が高く評価されている。愛好家にとっては知る人ぞ知る聖地のようなスポットであり、全国各地からリピーターが訪れるという同店にお邪魔して、お店のこだわりについて話をうかがった。

お店に一歩足を踏み入れると、ズラリと並んだカラフルなこけし&マトリョーシカと、こけしカットのスタッフについ目を奪われてしまうのだが、それはさておき。店名にもなっている“コケーシカ”(ロシア製3990円、日本の工人が絵付けしたもの6500円~ ※こけし業界では職人と言わず“工人”と呼ぶ)は、こけしとマトリョーシカを組み合わせた木の人形で、ロシア製のマトリョーシカの木地に日本のこけし工人が絵付けをしたもの。
沼田さんが「マトリョーシカのルーツは日本のこけしである」という説を元に、こけしとマトリョーシカを組み合わせたこのコケーシカを制作。2008年に『木形子可(コケーシカ)展覧会』を企画したのがきっかけで、このお店が誕生した。

「店の商品はこけしもマトリョーシカもすべて現地からの直接買い付け。こけしについては『こけし時代』が系統ごとに工人さんの取材をしているのですが、発売に合わせてお店でもその系統のフェアや展覧会をやっています」(スタッフの樋口達也さん)

素人目にはどれも同じように見えるこけしやマトリョーシカだが、こけしなら鳴子温泉で発生したもの=鳴子系、マトリョーシカならセミョーノフ系、ノーリンスク系など、産地により形や色使い、描彩(模様)などの特色がかなり違うのだそうだ。

「こけしは系統によってルーツがそれぞれ違っています。色や描彩の方法などが代々受け継がれているものが伝統こけしと呼ばれ、この型に当てはまらないものは新型こけし(創作こけし)などと呼ばれているのですが、当店ではあくまでも東北の伝統こけしにこだわっています。
マトリョーシカについてもやはり産地別で6つの系統がありますが、これは沼田元氣著『マトリョーシカ大図鑑』を出版したときに、日本で始めて定義付けたものです」

そう聞くと、遠い地からやってきた1つ1つの人形にぐっと愛着が湧いてくるというもの。こういった現地買い付け商品のほか、コケーシカをはじめとするお店のオリジナル商品がかなり人気があるのだそう。
「コケーシカと逆の発想で生まれた“マトコケシ”(ロシア製6510円)というのも販売していまして、これはこけしの形にロシアのマトリョーシカが絵付けされているものです。ほかにイラストレーターの100%ORANGEさん(新潮社のキャラクターの“Yonda?”パンダなどをデザイン)にお願いした“リトルブッダマトリョーシカ”(3990円〜)も、イラストをもとにロシアの職人が制作したものでかわいらしいので人気です」

お客さんの年齢層は、下は小学生から年配の方までと幅広く、男女問わず愛好家も意外に多いこちらのお店。国内のファンはもちろん、時にははるばるヨーロッパなど国外から訪れる人もいるのだそう。
「当店では書籍以外、通販をやっていないんですね。
こけしもマトリョーシカも手描きですから、1つ1つ顔だったり形、色味も違います。それを実際にご来店いただき、見て選んでいただきたいという思いがあるので、わざわざ来ていただいているわけなんですが」

商品のラインナップはもちろんなのだが、お店の魅力の一つとして挙げられるのは『こけし時代』を含めた発行物やフリーペーパー『コケーシカニュース』のコンテンツの充実ぶりだったり、デザインセンスの美しさ。
「普通の雑誌なら、例えばこけしの系統の特集をやったとしても一部の工人さんをピックアップして紹介されたりすると思うんですが、『こけし時代』は原則的に現役の工人さんは全員取材をしているので、毎号かなり手間はかかりますね。お店や雑誌作り、作品展示など活動全体に手を抜かないのは、“ヌマゲンテイスト”の作品でもあるからです」

販売のほかにロシアへのマトリョーシカ工場見学ツアーや、全国各地でのコケーシカ&マトコケシなどの展覧会を実施。また2011年の東日本大震災以降、被災地にこけしを贈るプロジェクトや、東北のこけし産地で地元の子供たちに絵付けをレクチャーするイベントなども続けていて、その活動は実に幅広い。

「ほかのお店ではできないことや、いまだかつてなかったものを作ろう、という考えで店がスタートしていますから」(樋口さん)と、お店の概念を超えてこけし&マトリョーシカの魅力を発信し続けるコケーシカ。
その佇まいがとても気になる。
(古知屋ジュン)

■コケーシカ鎌倉
住所: 神奈川県鎌倉市長谷 1-2-15
電話番号:0467-23-6917
営業時間:月・金・土・日曜11:00〜18:00
休日:火~木曜 ※臨時休業あり
アクセス:江ノ島電鉄線由比ヶ浜駅より徒歩5分