パリ市内の駅前では、毎朝パリジャンの出勤時刻に合わせて、いくつかフリー・ニュースペーパーが配られている。ある日その紙面に「なぜトマトは野菜ではなく果物なのか?」という小さな記事が載っていた。


同紙いわく、植物学者によれば果物とは花の後にできる植物産品で、種子をその中に閉じ込めたものを指すそうだ。トマトは野菜に思えるが、その考えに沿うと野菜でなく果物になるという。しかし調理の面では常に塩を使った料理で賞味されるため、ズッキーニ、ナス、カボチャ、アボカド、トウガラシと同じ野菜(果菜)になるそうだ。

筆者はトマトを野菜だと思っていたので、「トマトは果物である」ということに少々驚いてしまった。そこでフランス以外の国ではどう捉えられているのか、他国についても調べてみた。

まず英オックスフォード大学出版局が発行する『オックスフォード英語辞典』によれば、トマトとは「果汁が多く赤い薄い皮を備えた柔らかな果物。
野菜としても生でも調理しても食べられる」と記されている。同社ウェブサイトにも「トマトは果物か野菜か?」という項目があり、「科学的にいえばトマトは明確に果物である」との答えが書かれている。

同社サイトによれば、果物とは子房(雌しべの一部)から発達した、種子を含むものであり、ブルーベリー、ラズベリー、オレンジがこれに当たる。イチゴのように、(内部に種子を含むのではなく)種子を支える柔らかい部分を、(外側に)持つ植物もいくつかあるが、この構造も果物に入るという。それ以外の場所を食用するものを野菜といい、例えばキャベツ(葉)、セロリ(茎)、ジャガイモ(塊茎)が挙げられる。

ただし料理として考えた場合、甘く味付けられることはなく辛口の料理に使われるため、トマトを野菜と呼ぶこともあるという。
つまりトマトはそのままだと果物だが、料理として出されると野菜になるのだ。

一方で米国は、法律上トマトを野菜として定義している。同国で1893年に起きた「ニックス・ヘデン裁判」では、トマトは果物か野菜かという分類を巡り、最高裁まで争われた。判決の結果、司法は「トマトは野菜である」という結論を下した。

日本はどうだろうか。農林水産省によれば、トマトが果物か野菜か、生産・流通・消費などの分野で定義は分かれており、はっきりした区分はないとしている。
しかし生産分野においては、「田畑に栽培される」「副食物(主食に添えて食べるもの)」「加工を前提としない」「草本性(1年から数年で枯れる植物)」という特性のものを野菜とし、「木本性(木になるもの)」、「永年作物(何年間も植え換えが必要ないもの)」を果樹と分けているため、トマト、イチゴ、メロン、スイカなどは果実的野菜として、野菜に分類している。

トマトは毎年1億3000万トンが170カ国で消費される、世界でもっとも食されている作物の1つだという。果物か野菜か、捉え方は各所で千差万別だが、世界で愛される食べ物ということに変わりはない。
(加藤亨延)