ダウンタウンの松本人志や、最近だとビッグダディなど、テレビの出演者が着ているのをたまに見かける「作務衣」。なんとなく粋っぽく感じられるからか、あるいは“和のオシャレ”っぽさが感じられるからなのか、その姿に筆者などは「作務衣、いいな~」とあこがれのような気持ちを抱いてしまう。


で、量販店などで1000円前後で売られている作務衣を買ってみたりするのだが、いざ着てみると、なんか違う……。洋服に比べるとゆったりとしているので、たとえばスーツから作務衣に着替えると、「ハ~ッ」と一息つくような心地良さは感じられる。なんだか、気分はイイ。けれど、粋っぽさは特段感じられない。“和のオシャレ”感もない。この作務衣姿で外出ができるかといえば、ちょっと恥ずかしいのが正直なところだ。


そもそも、作務衣姿で外出している人など、めったに見ることはない。筆者が住む鎌倉は、古都ということもあってか、着物姿の人は結構見かける。だが、作務衣姿の人はまず見かけない。
などと思いながら鎌倉の街を歩いていると、アレ? もしかしてアレは、作務衣かしら? けれど、筆者が持っている作務衣とは、まったく違う。粋っぽさや“和のオシャレ”感があり、すこぶるオシャレなのだ。

そんな“オシャレ作務衣”を着ている人を見かけ、気になった筆者は「鎌倉 作務衣」でネットで検索をしてみた。
すると、どうやら最近、「鎌倉作務衣堂」なる作務衣の専門ブランドが立ち上がったらしい。これは、ますます気になる。

そんなわけで、今回はこの「鎌倉作務衣堂」に話を聞いてみた。

「今日はよろしくお願いします」と言って出てきた、鎌倉作務衣堂のご主人。ワイシャツにズボン、それにブレザーという服装だ。あれ、「作務衣堂」なのに洋服なのですね。


「いや、コレ、作務衣なんですよ」
え? それ、ブレザーじゃないですか。……いや、よく見ると違う! ヒモが! 両サイドから出ているヒモが! おへそのあたりでキュッと結ばれている! こりゃ、ブレザーじゃない! 作務衣だ!

「素晴らしいリアクション、ありがとうございます(笑)。こういう作務衣の着こなしはあまり無いので、驚かれるのも無理はないです」とご主人。そういえば、先日街で見かけた作務衣もこんな感じだったような気がする。
「その作務衣が鎌倉作務衣堂のものかはわかりませんが、外で着用していたということは、なかなかイイ作務衣かもしれませんね」
そう、作務衣とはそもそも外出時に着るものではない。あくまでも「家着」なのである。
もっというと、禅宗の僧侶が掃除や料理、まき割り、農作業といった日々の雑務=禅宗でいうところの「作務」を行うときに着る作業着のことなのだ。

「日本における禅の文化は鎌倉が発祥ですが、その衣装が作務衣だったんです」
なるほど。そんな鎌倉に生まれた「鎌倉作務衣堂」だが、なぜいま作務衣なのだろうか。

「まず、このゆったりとした、またサラリとした着心地の作務衣は、高温多湿な日本の風土にピッタリ合っていることが挙げられます。窮屈な洋服よりも、ずっと実用的なんですね。それを、もっと日本人に知ってもらいたいと思いました」
あー、それはわかる。
筆者も、安物とはいえ、自宅にいるときは洋服より作務衣を好んで着ている。その理由は、心身ともにリラックスできるからだ。

「それと、作務衣を通じて、日本の良さを感じるキッカケになってくれたらとも思うんです」
仕事にも、プライベートにも、欧米のスタイルが定着している今の日本人。しかし、それにより疲弊してしまっている人が増えているのもまた事実。“モッタイナイ”や、他者への思いやり、暮らしの中の“余白”を大切にすること。そんな、日本文化ならではの素晴らしさを、作務衣を着ることで感じてほしい、思い出してほしい。
そんな思いが、鎌倉作務衣堂の作務衣には込められている。

「ちょっと、着てみますか?」とご主人に促され、作務衣に袖を通してみる。うわ、軽い! 筆者所有の作務衣とは、着心地がまったく違う!
「軽くて、薄いですよね? でも、生地が高密度なので、和紙のように丈夫なんです。しかも、風もチリも通さない。だから、一年中心地良く着られます」

和紙っぽさは、そのクシャッとした見た目からも感じられる。「初めからクシャッとしているので、シワが付くのを気にする必要もありません。本当に気軽に着ていただけます」とご主人。だが、気軽さだけではなく、カッコ良さ、ファッション性の高さも感じられるのが、鎌倉作務衣堂の作務衣の魅力だ。

「作務衣はもともと作業着ですので、デザイン性やファッション性は重視されてきませんでした。自宅で着る服はなんでもいいという人でも、やはり外出時はオシャレに気を遣いますよね。だから、オシャレとはいえない作務衣を外で着る人があまりいないのも、当然といえば当然です。けれど、着るだけで身も心もリラックスできる作務衣を、家用だけにとどめておくのはもったいないと思いました」

そこで鎌倉作務衣堂は、名のあるデザイナーに依頼し、作務衣をデザインしてもらった。
「作務衣をデザインするのは初めてだったらしいのですが、そのデザイナーさんとしても非常に満足のいく仕事ができたとおっしゃっていました」
結果、外出にも適したファッション性の高い作務衣が誕生したのである。ご主人のように、洋服と組み合わせて着ても、なんともカッコイイ。

「天然染料だけを使った職人による手染めなので、ジーンズと同じように、着れば着るほどになじみ、それぞれの作務衣がそれぞれに違った、いい色合いになっていきます。20年、30年と、長く持たせられるのも、この作務衣の特徴です。30年後には、まるで皮のような雰囲気の色合いになっていますよ」

30年後の日本は、一体どうなっているのだろう。ますます欧米化が進んでいるのか。日本人ならではの生き方に、立ち返っているのか。願わくは、作務衣を着て街を歩く人がたくさんいるような、そんな日本であってほしいと筆者は思う。それぞれの色合いを持った作務衣と、日本人であってほしいと。
(木村吉貴/ 編集プロダクション studio woofoo