ボートレース――さっそうと水面を疾駆するモーターボートを操る選手達の戦いだ。

モーターボートの原動力はいうまでもなく、ボートに積まれたモーター。
その、レースに欠かせないモーターは、実はレース前の「抽選」によって各選手に割り当てられていることをご存じだろうか。
「えっ、選手自身のものじゃないの?」と驚く方もいるはず。抽選にするその理由を、今回は調べてみた。

■抽選会からレースは始まっている!
その前にまず、ボートレースで使用されるモーターってどんなものなのだろうか。
モーターは、約400ccの2サイクル2気筒で、燃料はガソリンにオイルを加えた混合燃料。最高出力は1分間に6600回転で、その規格はすべて統一されている。
だが、実際にボートに搭載してプロペラを付け、選手が調整を行うと、レース結果を左右するような性能の差が出てくるというから、なんとも不思議である。

たとえば、「モーター72号機は2連率(2位以内に入った率)40・9%、2優出(優勝戦出場数)、1V(優勝)」といったようにモーターのプロフィール紹介が公開抽選会などでアナウンスされる(まるで選手みたいだ)。

ファンサービスの一環として公開の抽選会も行われており、司会者と可愛いコンパニオンさんが並ぶ中、「モーター」「ボート」と大きな字が書いてある抽選ボックスに選手が手を突っ込んで、番号札が入ったレターを引き出す。いいモーターが当たった選手へは祝福の拍手が沸き起こるようだ。

勝敗を左右するかもしれない抽選会、選手の緊張も伺える。
「秋からリズムもいい。
上位3機が欲しかったんですけど……まぁ、その次のエンジンなので十分」
「整備はエンジンと相談して、1日あるのでじっくり考えたい」
「34号機を引きたかった! “これだけはイヤやなぁ”と思ってるのを引いてしまった」

などなど、当てたモーターによって選手は一喜一憂。それだけ凄く期待と不安をもって抽選会に臨んでいるのだろう。
まさに、モーターはレースの鍵。選手に次ぐ大きな存在なのだ。

■調整能力がレース勝利のカギ!
モーター以外に実はボートも抽選となっている。やはり同一規格ながら、些細な構造の違い、そして日頃の整備の良し悪しによっても成績に影響を及ぼす。
ちなみに、ボートに選手が改造を加えることは禁止されている。モーターの調子によって整備し、指定されている部品は場合によって交換できる。

選手みんなに勝利のチャンスを公平に与えるため、レースの大きなアドバンテージとなるモーターとボートは、抽選となっているわけ。たとえば、クラスの低い選手も、くじ運が良ければレースに勝利するチャンスが生まれることも。実際、エースモーターと呼ばれるモーターは準優や優出することが多く、下位ランクの女子選手でも調整がうまく行くと、男性の選手を抑えて1着を何度も獲るそう。抽選会からレースは始まっているといっても過言ではないのだ!

このようにボートレースは、選手の操縦テクニックだけでなく、モーター、ボートのくじ運、エンジニアのような整備力もレースの勝敗に複雑に絡むおもしろい競技だ。
ファンの中には「エンジン音を聞くだけでレース結果が解る」と豪語する人も多数存在するとか。

とても奥深いモーターとレース、そして選手との関係。でも、「メカに詳しい整備士を使ってどんどん性能を良くすればいいじゃないか」と思ったりもするが、選手自身でしかできない規定になっており、また、選手同士の作業協力も禁止となっている。あくまで、その選手の「整備の腕」が試されるというわけだ。整備もレースのうちという感じ。

ボートレースをもっと楽しむなら、モーター抽選会のプロセスからウォッチすべきだろう。
モーターと選手の両方の個性が分かってレース予想が立てやすくなりそうだから――。
(羽石竜示)