昔よりずっと「オタク」がオープンなものになり、昔ながらのオタクとしては嬉しいようなそっとしておいて欲しいような複雑な心境だ。
そんななかついに現れたのが、オタクによる育児コミックエッセイ『オタママ充!』である。


本書では、家族の協力を得ながら、オタク活動と育児を両立させているアサナさんの日常のエピソードが、見る人が見ればパロディだとわかる要素もふんだんに交えながら描かれている。
私もそこそこのオタクだと自認しているが、そんな私から見ても著者のアサナさんはガチなオタク、むしろガチすぎて心配になるレベルと言ってもいいかもしれない。だが、この本は育児マンガ、そうアサナさんは結婚しているのだ。独身女からしてみれば全てをチャラにしておつりが来るうらやま……まぁ、私情はこの辺りにしておこう。

趣味を満喫してしまっている私としては、結婚に対してネガティブなイメージも持っている。結婚を期にオタク活動をやめてしまった友人もいるからだ。
アサナさんは卒業を考えたことは無かったのだろうか?実際にアサナさんに伺うことができた。
「既にオタクが生活の一部だったのであまり考えたことがなかったです。旦那にも元から隠してなかったのもあり、そのまま母親にまでなりました」
旦那様になる人にも隠さないと言うのがカギだろうか。つい隠してしまう癖をなおさねば……。

とても理解のある旦那様で、エッセイを読んでいてもうらやましいかぎりだが、オタク活動と子育てを円滑にするためにどんなことに気をつけているのだろうか?
「相手のプライベートの時間を尊重することです。自分にも趣味があるように相手にもあるのでそれをお互い大事にしようと心がけています。
舞台やライブで私が外出して子供の面倒を見てもらった次の日は、子供だけ連れて外に遊びに行き、旦那にも自由な時間を持ってもらったりしています」

エッセイではコミカルに描かれているが、子育て中、特に乳児期はなかなか外出できなかったり、夜泣きなどで体力的にもつらいことも多かったのではないだろうか。
「オタク活動は家でできることが多いので、わずかな時間を見つけては絵を描いたりゲームをしたりしてそれが気分転換になっていたと思います。時間が限られている時の方が『今のうちにやらなきゃ!』と集中して作業ができて、子供を産んでからのデビューと出版までに至りました。人間追い詰められた方が頑張るんだな、と……(笑)」
なるほど、盲点だった。インドアな趣味があることが逆にいい気分転換につながったというわけだ。

もしかしてオタクであることは、ある意味メリットが多いことなのかもしれない。
他にもオタクでよかったなと思ったエピソードはあるだろうか。
「特撮を子供と一緒に楽しめる時は『こんな楽しみ方もあったのか!』と新しい発見ができてよかったです。おもちゃのベルトを腰にまいて『へんしんっ』という息子が可愛くて仕方がありません! 本来はこれが正しい楽しみ方なのかもしれませんが……(笑)こうして一緒に特撮を楽しんで、そして息子は卒業していき置いていかれるんだと思います(笑)」
子供と一緒に楽しめると言うのはかなり嬉しいことかもしれない。そう言えば甥っ子がそろそろ特撮にはまる頃合いだ。同じ話題が持てるのは楽しみだ。

私もその一人だが、オタク活動が楽しすぎて結婚に踏み込めない、不安があるオタクたちはたくさんいるだろう。
そんな勇気が出せない世のオタクたちに、アサナさんからエールをいただいた。
「結婚は、ひとりでも生きていける人がそれでも一緒に人と歩んでいくこと、というのが持論です。オタクでも何でも軸がある自立した人は、相手を支えてあげられる強さがあると思います。もちろんお互いの趣味や時間を尊重しつつ、バランスを保てば楽しい結婚生活ができるんじゃないかなと。家族というのも出産や育児などいろんなイベントが発生して面白いのでぜひ皆さんにもファミリー体感ミュージカルをしていただきたいです!」

オタクのみならず、自分の趣味を持っていることは決してマイナスではなく、捨てなければいけないことではない。結婚に感じていたネガティブなイメージも、少し楽しみに変換することができた。
趣味を理解はしてもらえなくても、尊重し合える相手をみつけて、いつか「ファミリー体感ミュージカル」を開催したいと思う。
ぷぷっと笑えて、オタクあるある満載の『オタママ充!』、独身女性にもぜひ読んでいただきたい一冊だ。
(会田芽穂/boox)