そんな喧騒に包まれた会場の一角で、何やら不思議な物体を発見した。何か巨大な金属製のロールパンのような奇妙な筒。それが置かれていたのは、地方自治体のPR出店が軒を並べる中の一軒、岩手県のブースだ。

その物体の前には「ILC国際リニアコライダー」なる名称が。りにあ?リニアモーターの親戚か何か?よくわからないんで、近くにいたわんこそばのゆるキャラが描いてあるはっぴを着たお兄さんに聞いてみた。これ?何ですか?
「電子と陽電子を光の速さに近いものすごい速さまで加速させて衝突させてビッグバン直後の状態を再現するための装置なんです」
え?ようでんし?ビッグバンってあの宇宙誕生の瞬間のビッグバン?大量アカウント削除のことじゃないよね?そもそも宇宙の誕生って再現できるものなの?しかもそれが岩手県とどう関係あるの?頭のなかで突っ込みどころがビッグバン状態だ。
文系頭の筆者には何が何だかなので、頂いたパンフレットを手がかりにちょっくら調べてみた。すると「ヒッグス粒子」という単語が目に入ってきた。おう、これは聞き覚えがあるぞ。2012年に世紀の大発見と騒がれ、翌年、ノーベル物理学賞を受賞したあれだ。あれだと言ってもまあよくわからないのだが、ヒッグス粒子とはものにはなぜ質量(重さ)があるのかという極めて根本的な疑問を明らかにするかもしれない素粒子で、これの謎が解明されることで宇宙がなぜ今のような形をなしているかなど様々な疑問が明らかになるかもしれないと期待されているのだ。
そのためにはヒッグス粒子をよりシンプルな方法で発生させる設備が必要。そこで求められるのが「ILC」という加速器なのだ。ただしその規模は直線で全長30~50キロメートルに及び、建設候補地は極めて限定される。そこで手を上げたのが岩手県だった。同県南部に広がる北上山地は自然に恵まれているだけでなく強固な花崗岩で構成されているため、振動が少なく、電子や陽電子といった極めて小さな粒子の衝突実験に最適だという。東日本大震災で巨大な揺れを受けたにも地域にも関わらず、地中における影響は軽微だったことも支援材料になるとしている。


県の計画では2020年後半にはILCを稼働させたいとしているが、誘致がうまくいけばヒッグス粒子の研究だけでなく、幅広い分野における研究施設がILCの周辺に集まってくる可能性は大きく、つくばにも負けない日本を代表する科学都市が岩手に出現するかもしれないのだ。ちなみにILC建設にかかる総費用は8300億円とのこと。これを高いと取るか、その後の効果を考えれば合理的といえるかは分からないが、うまく軌道に乗れば日本の科学力が何レベルかは底上げされることだけは容易に想像できる。

それにしても、アニメやゲームの面白ネタを拾おうと入った場内で、メタリックなロールパンをきっかけにこんなアカデミックなネタに遭遇してしまうとは、なんだかちょっとだけ頭が良くなった気分になってしまう(なったとは言っていない)。さすがニコニコ超会議(以下「さすニコ」)、恐るべしである。

(足立謙二/ 編集プロダクション studio woofoo )