「私は浅倉南より、新田由加のほうが好きだっ!」

そんな思いを先日、『アメトーーク!』でケンドーコバヤシが力説していた。

男はみんな浅倉南が大好きだ、でも……という話の流れだったが、実は同じような主張を自分もしたことがあり、そのとき女性たちに言われたのが、こんなセリフだった。

「そりゃそうだよ」
「当たり前じゃないですか」

浅倉南は男たちを「キープ」している


なぜ浅倉南より新田由加のほうが女性読者に好かれるのか
「タッチ」1 (小学館文庫)


マンガ『タッチ』の世界の中では、浅倉南は誰にでも愛される一方、新田由加はモテるが、同性に疎ましく思われたり、嫌われたりする。
あるとき、新田由加が不良たちに取り囲まれ、「あんたね……ちょっと男子に人気があるからって、生意気すぎるわよ」と言われると、「男子に人気のある女が気に入らないのなら、浅倉南からお先にどうぞ」と言う新田由加に、不良は言う。
「バカやろぉ、おまえなんかと浅倉南を一緒にするな!」そして遠い目でこう付け加える。
「あいつだけさ、おちこぼれのあたいたちを差別しなかったのは。本当にやさしくていい子だよ、浅倉は……」
そう言われて「気に入らないなァ」と言う新田由加に「確かに! 如才なさすぎだよね」と思った。そして、そんな不良たちを腕力でねじふせる姿を清々しく思ったものだ。

だが、そうした自分の思いが、捻くれ者特有のものかと思っていたら、実は「同性の読者には浅倉南より新田由加のほうが好かれている」のが、「当たり前」なのだと言う。


なぜか。ある女性のマンガ編集者は言う。
「新田由加は、最初から自分の負けが見えている相手(恋敵・浅倉南)であっても、諦めず、ストレートに好きな人(上杉達也)に思いを伝え続けますよね。その思いは一途で、自分に言い寄る他の男には目もくれません」
確かに、上杉達也以外の男(女も)は歯牙にもかけず、そうすることで自分が周りにどう思われるかなんてこともお構いなし。
それに比べ、南は常に優しく、誰にも嫌われないスタンスを貫いている。そのために、自分に思いを寄せる男たちをフリもせず、結果的にキープしている状態だ。


不器用で一生懸命な新田由加


また、南は「自分が魅力的であること」を十分理解しており、それを利用してカッちゃんに「甲子園に連れて行く」という夢を託したり、男たちに上から目線でモノを言ったり、ときには説教したりする。しかも、おそらくド天然で、計算ではないところがまた厄介だ。
「それに、新田由加は好きな人に対しては本当に健気で、その不器用さ、一生懸命さが可愛いんですよね」
確かに、強引に約束した映画に上杉達也と一緒に行くために、足の怪我を隠したり、痛みを疑われるとアクロバットをしてみせたり、料理なんて全くやったことがないのに、合宿中の野球部のために授業中も一生懸命料理本を読んだり、夜中まで料理の練習をしたり、なぜか高級肉を買ってきてドイツ料理を作ろうとしたりする。おまけに、達也に「野球部に代々伝わる伝統のスタミナ丼が食べたい(実は浅倉南のオリジナル)」と言われると、一度は捨てた南のレシピを探し、一生懸命マネして作るのだ。

ちなみに、同編集者はこんな指摘をする。
「あだち充先生は少女漫画出身ですが、描くヒロインは、途中までは実は同性に嫌われるタイプが多かったように思います。
でも、それが変わったのは『H2』の古賀春華ちゃんから。可愛くてモテるのに、自分の好きな人とはうまくいかないとか、不器用だとか、女子はどこか欠点のある子に共感を持ちますから。ちなみに、今の少女漫画は同性からの好感度を非常に重要視しているので、ヒロインはたいていどこか欠点があるんですよ」

思えば、いまの人気少女漫画のヒロインは、「美人なのにどこか残念」「地味女だけど、実は」「一見派手なのに、実は奥手」「みんなに暗いと思われている」など、同性が応援したくなるヒロインが多い。
でも、だからこそ、浅倉南のようなキャラってなかなかいないなぁなどと、新田由加について語りながらも、最終的にたどり着いてしまうのは浅倉南の話だ。

ちょくちょくカチンときながらも、目が離せない浅倉南が、結局、最強なのだろうか。
(田幸和歌子)