若き天才インド人が教える、体の滞りを解消するヨガ
ワナカム・ヨガスクール代表のマスター・スダカー。若き天才としてインドの数々のヨガ大会で審査員を務めた後、シニア・ヨガの第一人者としてアジアを中心に古典ヨガを広める活動をしている。香港在住。

益城さんは、今から13年前に交通事故で左脚の後十字靭帯を切断し、膝下を14箇所粉砕骨折する大けがをした。手術を5回行い、何とか歩くことができ、日常生活を行うことができるようになるまで3年半を要した。
医者からは将来正座をできるようになることはないし、医療用サポーターをつけることなければ軽いランニングさえできるようになることはないだろうと診断されていた。実際、正座をしようと膝立ち状態から腰を落とそうとしても45度以上の角度で腰が落ちることはなかった。

88歳の荒井二美子さんはレビー小体型の認知症と診断されていた。記憶障害の他に幻聴幻覚に悩まされていた。娘の美香さんは、多少の記憶障害や腰の曲がりなどは加齢から避けられないものとは思っていたものの、それまで穏やかで優しかった二美子さんが時折激高したりする姿を見るのが辛く、また深夜の奇声に悩まされることもしばしばだった。

益城さんは今では3~4km程度のジョギングならサポーターをつけることなく問題なくこなす。
完全な正座はまだできないが、お尻とかかとが後もう少しで付きそうな程膝を深く曲げることができるようになった。

荒井さんは幻聴幻覚がなくなり、時折光が二重に見えていた視界の問題も治った。もとの穏やかな性格を取り戻し、デイサービスでも積極的になり以前よりもおしゃべりになった。

この二人は共通して行ったことがある。それがヨガだ。
若き天才インド人が教える、体の滞りを解消するヨガ
ヨガスクールでポイントを指圧され、激痛に顔を歪める益城さん。

その話を聞きつけて、二人が通ったワナカムヨガスクールを訪れてみた。
ワナカムはヨガスクールといっても、校舎を持つ学校ではない。ヨガ界の若き天才と言われ、シニアヨガの第一人者である香港在住インド人であるマスター・スダカーが不定期に日本全国を訪れ行うワークショップ形式の学校だ。

その日はシニアヨガを教えるヨガのインストラクターのための講座を訪れ、筆者の四十肩を診てもらった。

簡単に症状を伝えると、しばらく筆者の体を眺めたマスター・スダカーはおもむろに鎖骨の下の一点を強く押した。その瞬間激痛が走った。それでもマスターは構わず押し続けた。
ほとんど拷問だ。これがヨガなのか?

前述の益城さんも奥さんに初めてワナカムに連れてこられたときに、腿と足の甲の四カ所を強く押されたという。事情をよく知らぬまま訪れた益城さんは、大勢のヨガインストラクターが注視するなか激痛に耐えた。そして続けて一つのヨガのポーズをとらされた。そこでも脚の筋肉が切断されてしまうのではないかという激痛に見舞われた。連れてきた奥さんを恨めしく思ったという。
しかしその苦しいポーズが終わると、膝がだいぶ楽になり、曲がるようになったそうだ。
若き天才インド人が教える、体の滞りを解消するヨガ
交通事故で膝が45度までしか曲がらなくなった益城さんの膝が、一年間毎日一分のヨガのポーズをとることによってここまで曲がるようになったという。

同様、筆者ももうさらに一カ所肩を強く押された後に腕を上げてみると、驚く程軽く上げることができた。

確かにすごい。しかしこれはヨガというより指圧に近い気がする。一体どういう仕組みになっているのだろうか?

「日本や欧米の先進国では、ヨガはファッショナブルなものというイメージが定着していますが、本来ヨガは健康を増進するためのものです。その健康とは肉体、内面、精神、感情、社会、知的の6つの面の健康です。
日本にはヨガのやりすぎで体を痛めてしまったというヨガインストラクターがたくさんいますが、それは間違ったヨガを行っているからです。正しいヨガを実践すればそのようなことはありえません」

マスター・スダカーはそう語ってくれたが、その正しいヨガと激痛指圧にどのような関連があるのだろう?

「ヨガによって体の滞りを解消することができます。その滞りは、本来使われるべき体の筋肉などが正しく使われていないことなどによって生じます。そのポイントを押すと激痛が走りますが、そのことによってその部位を意識することができるようになり、そこを意識しながらアーサナ(ヨガのポーズ)を取れば、激痛を伴うことなく滞りを解消できるのです」

つまり体の滞りを解消するという意味では指圧もヨガも一緒であるということなのだ。前述の益城さんも激痛ポイントを押された後は、一日一分間教わったヨガのアーサナを行うことによって、膝の痛みが取れ曲がるようになってきたのだ。しかし益城さんも医者からはある程度見放されていたのになぜなのだろうか?

「医学などの西洋科学は物事を外側から考察します。
それに対してヨガは人間の内面から考察していきます。だから見解も違いますし、できることも違うのです」
若き天才インド人が教える、体の滞りを解消するヨガ
わずかな時間の施術で、曲がっていた首腰がここまでまっすぐなるようになる。曲がって戻らないと思っていたのは、筋肉をどう使っていいかわからなかったためだという。

若き天才インド人が教える、体の滞りを解消するヨガ

レビー小体型の認知症も現代医学では根治することはできないと言われているが、本当に症状は改善することがありえるのだろうか?

「レビー小体型の認知症は脳の側頭葉や後頭葉が委縮することによって起きますが、その委縮自体を戻すのは難しいと言われています。しかし荒井さんの場合は古典ヨガを行うことによって情緒や感情を司り、言語や記憶に関わりを持っている側頭葉の血流が活性化されたのではないかと思われます。こうした考えは、私たちの行っている認知症予防の講座の内容とも合致しています」(一般社団法人 認活アドバイザー協会 代表理事 鶴賀奈穂乃氏)

現在、日本のヨガ人口は350万人を超え、今後も増えるだろうと言われている。そのことによって日本人が健康になっていくとすれば喜ばしいことだが、ファッションとしてのヨガを行うと却って体を壊してしまうこともあるので、きちんとした古典ヨガを学んで欲しいとマスター・スダカーはいう。

「豊かさとは健康のことであり、幸福とは心の平穏のことです。ヨガは真の内面の幸福をもたらすのです」
(鶴賀太郎)