高尾山界隈の裏グルメ、春の山菜天ぷらを食べに登山してきた

東京都心から約1時間で到着し、毎年多くの人が訪れている高尾山の名物といえばとろろそば。高尾山のふもと周辺などに店が並び、登山客の楽しみの1つとなっている。


もちろんとろろそばを味わうのもいいが、高尾山から少し足を延ばした景信山(かげのぶやま)の山頂の茶屋では、美味しい山菜の天ぷらが食べられるらしい。これから山菜の旬であり、当然山頂からの眺めは格別である。最高のロケーションで春の味覚を楽しむため、景信山山頂を目指すことにした。

山菜天ぷらのために、まずは山頂を目指す


高尾山界隈の裏グルメ、春の山菜天ぷらを食べに登山してきた
高尾駅から小仏バス停まで15分ほど


景信山の登山は山頂まで2時間程度だという。登山初心者でも気軽に山登りを楽しめそうだ。

高尾山界隈の裏グルメ、春の山菜天ぷらを食べに登山してきた
最初は道が舗装されているため歩きやすい


ところが足元はだんだんと砂利道に。歩きにくく疲れるが、これも山菜天ぷらのためである。


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山の緑が目に優しいが、坂道で足腰にかかる負荷は厳しい


登山初心者でも楽に登れるだろうという甘い考えを思い直すような、泥道に変わってきた。後で聞いて知ったのだが春は天候が変わりやすい。安全な登山を行うために、簡易的でも山の装備は必要だ。

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このあたりは粘りのある赤土で、雨が降り山道はドロドロになることも


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道が泥んこになったことでタイヤの跡が残っている。何のタイヤは後ほどご紹介


山菜採りのおじいちゃん登場


歩きづらい道に苦労して日頃の運動不足を実感していると、山の斜面におじいちゃんが!

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頂上に行く前に山菜の話が聞けるとは……


何をしているのかを聞くと、山菜を採っているのだそうだ。自宅で天ぷらやお浸しにして食べるのだとか。せっかくなので収穫品を見せてもらった。

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左上からカンゾウ、ユリワサビ、アザミ、コゴミ


――よく食べられる山菜が分かりますね。
私にはどれが食べられるものか見当もつきません。

「フフフ 今の山に生えているものは、どれを採っても食べられるよ」

――そういうものですか。まさに春は宝の山ですね。おじいちゃんはよくいらっしゃるんですか?

「この道はあまり来ないけどね。この間『キツネノカミソリ』が咲いていて綺麗だったよ」

――キツネノカミソリ……? どんな花なんですか?

「国産の彼岸花(ひがんばな)だよ。よく見かけるのは中国産でね。
昔はネズミ避けに使った毒草なんだよ」

――毒草! さっき全部食べられるって言っていたのに!? 危なく信じるところでした。やはり山菜採りは経験と知識が必要ですね。

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小仏峠から景信山山頂までの道も教えてくれた


おじいちゃんによると山菜を勉強したいなら、山と渓谷社が出している『山に咲く花』が参考になるそうだ。相模湖まで行くというおじいちゃんと別れ、また孤独な登山になってしまった。

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霧がかかり足元も悪い。これはもう本格的な登山だ


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前がよく見えず、慣れていない初心者はとても不安である


登山歴は30年以上 山菜天ぷらはお嫁さんが揚げたサクサク天ぷら


自分のかく汗でメガネまで曇らせ、小仏峠から約1時間。景信山山頂に到着した。登山中に薄々気づいていたが、この天候では当然景色は見えない。
絶景天ぷらはおあずけである。

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晴れていれば富士山や関東平野を一望できるらしい


気を取り直し、山菜天ぷらである。景信山山頂には2軒茶屋がある。どちらも今回お目当ての天ぷらが食べられる。

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まずは「三角点 かげ信小屋」さん。土日祝日のみの営業だ。


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天ぷらはお嫁さんが揚げていた。

「去年までは89歳のおじいちゃんと85歳のおばあちゃんが来てやっていたんだけど、今年から私に変わったんです」

――その年齢で登山! すごい元気ですね。ちなみに材料の山菜はどうしているんですか?

「山菜が生える場所を知っているおじいさんたちが採ってきたものと、常連さんが持ってきてくれたものを中心に出していますが、それだけでは安定した量を確保できないため、栽培したものや買ったものも加えています」

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この日の天ぷらは、春蘭(シュンラン)、コゴミ、春菊、菜の花


「三角点 かげ信小屋」さんの天ぷらは見た目に野性味がある。見たことのない山菜は、素人目には野菜というより花や植物なのだが、苦味やえぐ味もなく甘みさえ感じる。新鮮なのだろう。食感はサクサクとしている。
春の恵みを感じる美味しさだ。

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これが春蘭(シュンラン)


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家族総出で店を手伝うアットホームさ


なめこ汁やうどんの調理を担当するご主人に話を伺った。

――週末に営業していらっしゃいますが、お店までは毎回登ってこられるんですよね。ご主人は何年ぐらいお店に通っているんですか?

「天候の悪い日以外は毎週だね。30年くらいかな」

――約30年間、ほとんど毎週登山ですか! ちなみに天ぷらはいつからお店で出しているんですか?

「天ぷらは40年以上出しているよ」

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景信山山頂で、ヒマラヤやアンデスの塩で食べる天ぷらはなかなか味わい深い


山菜は時期によって採れるものが変わるため、メニューは時期によって違う。山菜に詳しい常連さんによるとニセアカシアの花は絶品で、猿が先に食べてしまうほど。なかなかお目にかかれないそうである。


常連さんの熱燗が進む、シイタケの刺身


景信山にあるもう一軒の茶屋が、「景信茶屋 青木」さん。こちらも土日祝日のみの営業だ。さっそく天ぷらをいただこう。

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今回天ぷらで出てきた山菜は、ふきのとう、フキの葉、ユキノシタ、原木シイタケ、ヨモギ、ニワトコ。ご主人によると山菜の旬はこれからなので、イタドリ、キクイモ、タラの芽なども食べられるようになるそうだ。

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こちらの天ぷらは、厚みがあり食べごたえ満点



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前出の画像にあるたくさんの日本酒の空のカップ。あけたのは著者ではなく常連さんである


アザミさん「じつはこのお店ではシイタケのお刺身が食べられるの」
マベさん「山のアワビみたいでね」
アザミさん「マベちゃん、今日は(八海山の本数が)新記録じゃない?」
マベさん「そうね。でもあともう1本つけてもらおうかな」

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軽く湯通ししたシイタケをそぎ切りにしたお刺身


せっかくなので常連さんから教えてもらったシイタケの「お刺身」もお願いした。こちらのお店では原木シイタケを栽培しており、春のみの限定でお刺身が食べられるそうだ。ジューシーで天ぷらとも違った味わい。シイタケも魚の刺身のように鮮度がよくないと、生で出せないのだとか。ちなみに刺身にすることでキノコ本来の甘みを楽しめるのだが、生食にリスクはつきもの。自己責任で楽しんでいただきたい。材料の関係でいつでもメニューにあるわけではないそうだが、運が良ければ食べられるかもしれない。

高尾山界隈の裏グルメ、春の山菜天ぷらを食べに登山してきた
そしてもう1本、日本酒がつけられた


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道の途中で見られた車輪の跡はこの運搬車の跡。荷物を載せて人力で押してくるという


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帰りはこのお店で出会った常連さんに、近道のルートを教えてもらい下山した


常連さんとの会話も楽しい景信山の茶屋。どちらもなめこ汁が有名なのだが、山菜の旬である春にはやはり天ぷらを味わいたい。街では見かけないような珍しい種類の山菜に出会えるはずだ。また、景色は最高の調味料という。著者のような失敗がないようにお天気ニュースは必ずチェックしてから出かけてみてほしい。
(石水典子)