正直、実現性が薄すぎてリアリティがない。だが、20数年前、本当にこのスケールの野球映画が日本で制作された時代があった。
鈴木保奈美と真田広之の王道ストーリー
1994年9月公開の映画『ヒーローインタビュー』である。当時絶頂期にあったフジテレビが制作したトレンディベースボールムービー。
エリート記者のヒロインには全盛期の鈴木保奈美、その相手役のうだつの上がらないベテランプロ野球選手を演じるのは真田広之。
94年、28歳の鈴木保奈美と言えば『東京ラブストーリー』『愛という名のもとに』といった大ヒットドラマのヒロイン役を務めて視聴率女王的な立ち位置だったし、真田広之も前年に出演したTBSドラマ『高校教師』で人気に火が付き、雑誌アンアンの「好きな男ランキング」で1位に輝くギラギラの34歳。
そんな二人の恋を描く王道ストーリーをなぜかスポーツ記者とプロ野球選手というイレギュラーな設定で描いた本作。いや、今思えば当時のプロ野球には鈴木保奈美や真田広之と並んでも負けないネームバリューとブランド力があったということだろう。
武田鉄矢や江口洋介も 豪華すぎた出演者たち
もちろんフジ系制作と言えば舞台となる球団はヤクルトスワローズである。この設定は94年オフに結婚したヤクルトの正捕手・古田敦也とフジテレビアナウンサー中井美穂のカップルそのまんまという気もするが、脚本を担当したのは90年代のヒットメーカー野島伸司、プロデューサーは『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』等で知られる大多亮だ。
そして、なにより出演者が豪華すぎて怖い。ヤクルト監督役には体型がどことなくノムさんに似ている武田鉄矢、真田の娘役にはドラマ『家なき子』でブレイクしていた安達祐実、ライバルチーム横浜の投手は『妹よ』の兄役で評価を上げた岸谷五朗、バッテリーを組むロン毛のキャッチャーには『ひとつ屋根の下』のアンちゃんこと江口洋介、さらに当時「フェミ男」として人気を二分していた武田真治&いしだ壱成も揃って出演している。
そして、主題歌は飛ぶ鳥を落とす勢いのCHAGE&ASKA『HEART』、オープニングテーマも挿入歌もすべてチャゲアスでまとめる贅沢仕様。本作中の野球描写のユルさはあえてここで言及するのはやめるが、「有名な人がいっぱい出てるから観にいこっか」と街行く老若男女に思わせるメンツだったことだけは確かだ。
『メジャーリーグ2』では日本球界を馬鹿にしたジョークも…
本作の配給収入は13億4000万円。94年の邦画では『平成狸合戦ぽんぼこ』『ゴジラVSメカゴジラ』『男はつらいよ』『東映アニメフェア』『ドラえもん』に次いで第6位にランクインしている。洋画では『クリフハンガー』『トゥルーライズ』といったアクション大作がヒット。
そして同年に公開されたハリウッド映画『メジャーリーグ2』にはこんな台詞が出てくる。
「ジャイアンツから選手を獲得した。ただし、トーキョージャイアンツだ」
サンフランシスコではなく東京の巨人……完全に日本球界を馬鹿にしたジョークなのだが、その頃はトーキョージャイアンツの元4番マツイがヤンキースのクリーンナップの一員として、ワールドシリーズのMVPに輝くなんて誰も想像すらしなかった。
野茂英雄の渡米前年、ニッポンのお茶の間でMLBにいまいちリアリティがなかった最後の時代にプロ野球を舞台に作られたトレンディムービー『ヒーローインタビュー』。
ちなみにヒロイン役の鈴木保奈美はこの数年後、真田ではなく『メジャーリーグ2』でタカ・タナカ役を演じたとんねるずの石橋貴明と結婚することになる。