そんな理由で、日本の魚の消費量が減っている。
加えて、福島第一原発事故による海洋への放射性物質流出で、「日本の魚はやばい」というイメージが世界に広まってしまった。まさに日本漁業の危機だ。
だが、そんな窮状を救う救世主が現れた。それは「フルーツ魚」。身にほんのり、ゆずやみかんなどの香りがつき、食べるとその風味が口中に広がるのだ。
ざっとそのブランド名を挙げてみよう。
そうしたフルーツ魚のひとつ、「オリーブハマチ」を養殖する香川県かん水養殖漁業協同組合の嶋野勝路(しまの・かつじ)組合長はこう語る。
「養殖を始めた2008年はわずか1万尾の出荷にすぎませんでした。それがおいしいと評判を呼び、昨年は21万尾に。今年は25万尾超えを目指しています」
早速、週プレもオリーブハマチを試食してみた。すると、ハマチ独特の臭みがまったくしない。
それにしても、なぜフルーツ魚なんてものが生まれたのか?
日本で初めて「ゆずぶり」(高知県)の研究を手がけた高知大学農学部の深田陽久(はるひさ)准教授に聞いた。
「高知のオリジナルブランド魚をつくろうということで始めました。当時、養殖魚のエサにポリフェノールなど抗酸化作用のあるものを入れることがはやっていて、それならと同じ効果を持つ高知特産のゆずをエサに交ぜてみたんです」
すると、狙いが当たった。
しかも、予期せぬ副産物まで。深田氏が続ける。
「当時、研究室のメンバーはゆずをどのくらいエサに配合すればよいか探るため、毎日、大量のゆずぶりを食べていました。ところが、あるとき、研究員のひとりがゲップをしたら、ゆずの香りが研究室内にパッと広がったんです(笑)。それで詳しく調べてみると、ゆずの香りの成分がブリの身に移っていることがわかったんです」
高知特産ゆずぶりの誕生の瞬間だった。この高知での成功を聞きつけ、西日本エリアの各県が次々と特産の柑橘フルーツを飼料にした魚の養殖に乗り出した結果、さまざまなフルーツ魚が店頭に並ぶようになったというわけ。
こうなれば、もっとフルーツ魚を開発してほしい。いや、果物にこだわることはない。
「確かに、香りや味の成分が脂に溶けるものであれば、魚の身に移る可能性はあります。味がどう変わるかまでは調べていませんが、私の研究室でも、実験としてエサにハバネロやイチゴ味のプロテインを交ぜてブリに食べさせたことはあります。ただ、ハバネロ風味やイチゴ味の魚に価値があるかと問われると、ちょっと疑問ですね」(深田氏)
やっぱり柑橘フルーツの香りが魚にはベストマッチなのか。
「フランスなど、香りに興味を持つ国も多いので、そうした国々にフルーツ魚を輸出すればウケるのではないか。そんな夢を持っています」(深田氏)
世界に輸出だなんて、まさにフルーツ魚は救世主。これで日本漁業の復活は間違いない?
(取材/ボールルーム)