バブル後の最高値更新も囃された昨夏の日経平均株価2万円乗せ以降、大台復帰を果たせず調整色を強めている株式市場だが、それでも投資家の不満が高まっていないのは、上場企業の増配ラッシュによるものが大きいのではないか。高収益企業のなかには年間100円以上(1000株保有で税込み10万円以上)の配当を実施する企業も少なくない。



 特に年金収入に依存するシニア世代の投資家にとって、株式配当はうれしい臨時収入だ。2016年3月期決算企業の配当金が届く6月から7月にかけては、「孫に小遣いをあげる」「夫婦で美味しいものを食べる」「海外ツアーに行く」など、物心共に豊かなひと時を過ごすシニア投資家の話をよく耳にする。

 前期末で約10兆円とされる上場企業の配当総額を投資家別の保有比率で換算すれば、2兆円前後の現金が懐に入ることになる。収入の性質からも冴えない個人消費の底割れを防ぐ要因になっているのだろう。

 ただ、大幅増配や連続増配など景気の良い株主還元が伝えられる一方で、その意欲に乏しい、言い換えれば株主不孝とも呼べる企業群が存在していることも確かだ。

 前期末1株当たり純利益が100円を超える東証1部上場企業の配当性向を調べてみると、平均の2割はおろか、1割やそれに満たない低い還元率に留まっている企業は結構ある。
そこで、前期末配当性向が低い東証1部上場企業20社をリストアップしたのが、文末のランキング一覧である。そのなかの複数の企業に、配当政策について訊ねてみた。まずはワースト1から。

「前々期に19期ぶりの復配(年5円)を行い、前期には10円に増配した。建設業界はご承知のように事業環境が厳しい時期があり、自己資本比率など財務内容もまだ十分ではない。公約配当性向も中長期的な課題だろう。
今後も収益と財務のバランスを考慮して株主還元を実施したい」(大末建設)

 なるほど同社のように業績の急回復によって復配を果たした場合、配当が収益水準に追いつかないことは起こり得る。上位にも同じようなタイプの企業はみられる。

●高収益の優良企業の名前も

 一方で、誰もが知る有名企業、高収益で名高い優良企業でもランクインしているところはある。双璧ともいえるキーエンス、ソフトバンクの見解はどうなのか。

「配当については株主様のトータルリターン、安定的な配当を維持することをポリシーにしている。配当性向については公約していない。
会社としてはまだ事業拡大の途上であり、商品開発力、海外市場の開拓に投資を振り向けていきたいと考えている」(キーエンス)

「配当金が相対的に低いことは認識している。ただ経営の拡大を優先していることもあり、配当による還元は抑制されている。また弊社は株価の値動き自体が激しいこともあり、投資家の皆様は値動きで利益をあげていただける面もあるのではないか。(前年度の)株主総会でも配当に関するご批判は頂いていないと思う」(ソフトバンク)
 
 タイプこそ異なるものの異能で鳴らす両社だけに、配当よりも株価で勝負というところなのだろう。

 だが、値がさ銘柄の株価水準の維持は容易ではなく、中央銀行が資本市場への直接介入に血道をあげるような金融政策もいつまでも継続できるものではない。還元できる余裕があるのならば、安定性よりも機動的な配当政策を望むのが数多くの株主の本音であろう。

(文=島野清志/評論家)
 
【前期末配当性向が低い東証1部上場企業20社(カッコ内は年間配当・配当性向)】

大末建設(10円・4.6%)、関東電化工業(7円・5.0%)、ナカノフドー建設(7円・6.0%)、東京製鐵(8円・6.1%)、福田組(12円・6.2%)、カメイ(17円50銭・6.3%)、クスリのアオキ(12円50銭・6.0%)、澁谷工業(20円・6.7%)、JR東海(125円・7.3%)、パイロットコーポレーション(21円・8.1%)、キーエンス(150円・8.6%)、長谷工コーポレーション(15円・8.8%)、ミツバ(18円・9.5%)、くらコーポレーション(20円・9.5%)、ベリサーブ(15円・9.9%)、西武HD(17円・10.1%)、コロプラ(16円・10.1%)、コスモス薬品(65円・10.3%)、ソフトバンクグループ(41円・10.2%)、川田テクノロジーズ(30円・10.2%)