日本のどこかに“売春島”と呼ばれる島がある――。半ば都市伝説のようにささやかれるそれは、本当に存在するらしい。
“売春島”こと三重県の渡鹿野島は、江戸時代以前より存在し、漁業で賑わう島だったという。江戸と大阪を結ぶ海路上にあることもあり、船乗りたちが風を待つために立ち寄ることが多かった。島の人々は、8人ほどが乗れる小舟「はしりがね」で停泊する帆船に近づいて、娼婦が男たちの相手をすることから、そのまま娼婦たちのことを「はしりがね」と呼んだそう。
島と対岸が船で埋まるほどの人の往来があったそうだが、明治になると、蒸気船が登場し、風を待つ必要がなくなった。
明治末期、外貨獲得のために海外の娼館に売り飛ばされた日本の女性たちがいた。“からゆきさん”と呼ばれた彼女たちは、文字通り体を張って外貨を稼いだという。
八木澤が横浜・黄金町で出会ったタイ人女性は、父親の病気の治療費を稼ぐために日本に来たという。娼婦を「悪い仕事」と語る彼女は、黄金町の浄化とともにいなくなった。過去250軒ほどのちょんの間があった黄金町は、2005年の摘発により全店舗が営業停止に追い込まれ、現在アートの町として生まれ変わっている。
江戸時代、幕府公認の色街は吉原だけだったとされているが、当時の言葉で「岡場所」と呼ばれた裏風俗が東京に100カ所以上あったという。幕府はそれらを取り締まり潰していったが、形を変えて売買春は行われていった。本書では、10年代に流行したネットを介した売買春や「JKビジネス」にも触れている。秋葉原などで取り沙汰される「JKビジネス」は、今の世に対応した売春の姿だと言えるだろう。八木澤は「売春街をいくら取り締まったところで、またどこからか、むくむくと現れるものなのだ」と語る。
ほか、沖縄現地の風俗事情と米軍基地との関係性や、今はなき色街を歩いた著者だから知り得るルポを347ページにわたって収録。
摘発の強化によって消えた、1,000人を超えるとされる“じゃぱゆきさん”。彼女たちは、今どこで生きているのだろうか。