NHK籾井勝人会長の退任に、ホッと胸をなで下ろす局員がいる。局内で対立がささやかれた、報道局のスタッフだ。

政府の意向に寄り添った数々の問題発言や、ハイヤーの私的利用など批判を受けた籾井会長だが、中でも緊張関係にあった報道スタッフは「一息ついた形」としている。

「『クローズアップ現代』の国谷(裕子)キャスターが降板させられたことで、籾井さんへの反発はかなり強まっていましたからね」(同)

 国谷降板問題は2014年7月、番組に菅義偉官房長官が出演した際、国谷キャスターが安保関連法案について食い下がって質問を続けたところ、官房長官が不機嫌な態度となり、その後、国谷キャスターが番組を降板することになったものだ。

 籾井会長が明らかに政府寄りの姿勢を見せていたため、さらにNHKの報道姿勢も問われたが、番組を制作していた現場サイドではそれ以降、籾井体制への反発心が強まっていたという。

「ただ、そうしたスタッフは“X”マークが付けられ、人事に響くというウワサも広まりました。実際、籾井会長についての不満を局内で言えば、烈火のごとく上司に叱られる者もいましたよ。国谷キャスターの降板に反対した職員が、急に態度を変えて何も言わなくなったということもあったんです」と同スタッフ。


 そんな恐怖政治がNHKを包んでいたせいか、局内では籾井会長への不満がタブー化していたという話もある。

 NHKの諸問題を取材するフリーライターの田所敏夫氏は「同じく政府の反発を招いたテレビ朝日の『報道ステーション』の古舘伊知郎氏の降板が決まったのも、同じ流れだったと聞きます。国谷さんが降板させられたのと同日、TBS『報道特集』の顔、金平茂紀さんも執行役員を解任。この方も、政府に厳しい見方をしていた人。NHKのみならず、テレビ界に政府の圧力がかけられていたと見た方が自然」とする。

 ただ、NHKでも反対意見はあったようで、2年前、経営委員会を退任した下川雅也理事は、「NHKに対する信頼が揺らいでしまっています。
自主・自律が公共放送の生命線という認識は、戦前の根本的反省から生まれています。政府が右と言っても左と言う勇気を持ちませんでした。それがどれだけ悲惨な結果を招いたことか」と、政府追従の危機感を募らせていた。

 しかし、昨年は高市早苗総務大臣が国会の衆議院予算委員会で「放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる」という可能性に言及し物議をかもしている。

 前出・田所氏は「NHKには労働組合もありますが、ここも経営陣に対しての実質な対抗力はない状況。視聴者から番組内容に関する意見の窓口があっても、直接担当部署に伝えられなかったり、まるで体質を改善する仕組みがないんです」と明かす。


 次期会長にはNHK経営委員の上田良一氏が就任するが、その体質は変わるのか。田所氏は「籾井さんはもともと三井物産の副社長で、上田さんも三菱商事の副社長だった人。どちらの会社も与党べったりの企業なので、大して変わらない」とする。

「三菱商事は、傘下の三菱航空機が力を入れて開発している小型航空機MRJを大量に輸出するプランで、政府や官僚にロビー活動しているんです。このタイプの小型航空機は、日本国内であまり需要がないので政府もその意をくむはず。上田さんは穏健な人なので、籾井さんみたいに問題発言はない安全運転型でしょうし、籾井時代のように経営委員に露骨な右寄りの識者を集めたりまではしないと思いますが、本質は今までと同じ、政府寄りのまま」

 それこそ右や左というのではなく、NHKには政府の声より国民の声を報道してほしいものだが……。

(文=ハイセーヤスダ/NEWSIDER Tokyo)