1986年から、約10年間にわたって「りぼん」(集英社)で連載され、90年からはテレビアニメ化、現在もなお放送中という国民的少女マンガ『ちびまる子ちゃん』。同作は、おっちょこちょいでグータラだけど好奇心旺盛、そしてしたたかで鋭い面も持つ小学3年生のまる子(本名はさくらももこ)と、強烈すぎる個性を放つ家族や友人たちの愉快な日常が描かれたギャグマンガで、現在までになんと3000万部以上の売り上げ冊数を誇り、今もなお老若男女に根強く支持されている。
そんな『ちびまる子ちゃん』を、作者であるさくらももこがセルフパロディした作品『ちびしかくちゃん』が、9月25日に発売された。同作は、青年マンガ誌「グランドジャンプ」(同)に連載中で、公式サイトの紹介文を見ると、「『子供の世界にも人間関係がある』のは『まる子』と同じ、だけど本家よりも“何かと角が立つ”のが『しかくちゃん』」とのこと。ちょっとアレンジが加えられた『ちびまる子ちゃん』のキャラクターが登場し、大人が楽しめるようなシュールで皮肉の利いた内容になっているのかな? と思いながら、『ちびしかくちゃん』のページを開いたものの、その期待はあっさり裏切られることに……!?
■しか子以外のキャラがクズ
『ちびしかくちゃん』の第1話「【お父さんのパンツ】の巻」のストーリーは、だいたいこんな感じだった。
ある日学校に、体操着と間違えて、父“ピロシ”のパンツを持ってきてしまった“しか子”。友達の“だまちゃん”に相談するも、「アッハッハ笑っちゃうね みんなに言っちゃおう」とバカにされ、しか子は「ああん やめてよ だまちゃんはいじわるだねぇ」とオロオロするばかり。
あらすじを読んだだけでも、それぞれのキャラクターが、まったく別人格になっていることがわかる。本家『ちびまる子ちゃん』だったら、たまちゃんは、ヒロシのパンツを持ってきてしまったまる子に対し、「どうしたらいいのか?」を一緒に悩んでくれるはず。ヒロシだって、酔っ払いながら「まる子はバカだなぁ~」とヘラヘラするだけだろうし、友蔵もお母さんを責めるような真似はしない。
そう、同作は、しか子が、まる子と違って“気弱すぎる”、そしてほかのキャラクターがとにかく“クズ”に描かれているせいで、“胸クソの悪さ”ばかりを募らせる内容になっているのである。
給食で余ったプリンを勝手に食べたと濡れ衣を着せられるも、反論できないしか子、だまちゃんに「ノリが悪い」といわれ、ほしくもないジュースを買うしか子、お姉ちゃんに「なんであたしばっかり しか子をかわいがんなきゃならないのさ」と激怒され、泣きながら謝るしか子……などなど、しか子に感情移入して読んだが最後、イライラするだけでなく、その救いのなさに物悲しい気持ちに……。しか子を応援する気にもなれない。
ネット上を見ても、「あまりにも居たたまれない」「自分の作品をオモチャにしてるようにしか思えない」「しか子が不憫で泣けてくる」「なぜ、さくらももこはこの作品を描いたのか?」などの酷評が飛び交っており、戸惑いを見せる読者が続出している。
しかし、『ちびしかくちゃん』を読んだ後、あらためて『ちびまる子ちゃん』のページをめくると、ギャグに隠された“残酷さ”が目につくようになった。例えば、掃除委員の前田さんは、クラスのみんなが掃除をサボることに怒ってヒスを起こすも、「泣き顔がブスすぎる」という理由で笑われ、みぎわさんは花輪くんから拒絶されているのに、自分は好かれていると勘違いをする“道化”として、まる子やたまちゃんらに哀れまれている。
それに、火事で家が全焼した永沢くんを「はげます会」が描かれた回もあったが、冷静になって考えてみると、絶対に笑ってはいけない内容である。『ちびしかくちゃん』とは比べ物にならないほどの残酷展開のオンパレード。日曜の夕方に国民的アニメとして堂々と放送されるような内容ではなかった……そう思ってしまった。
まる子は、『ちびまる子ちゃん』の世界において、ある意味“強者”だったのかもしれない。
ただ、やっぱり、なぜこの作品を出さなければいけなかったのかは疑問が残る。「前田さんのヒス泣き顔で、笑いづらくなること」を恐れない人は、ぜひ読んでみるといいかもしれないけれど……。
(カコヨシコ)