羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。



<今回の芸能人>
「月曜『バイキング』のコメンテーターとか」坂上忍
『バイキング』(フジテレビ系、10月2日)

 テレビのコメンテーターという仕事の肝は、面白いことを言うよりも、「いかに司会者の思いを汲めるか」ではないだろうか。

 番組の“色”や方向性は、司会者で決まる。しかし、司会者はある程度中立でいなければならないので、自分の意見ばかり言うわけにはいかない。そのため、司会者の意を汲んだ発言をするコメンテーターが必要となる。鵜匠が船に乗り、鵜を使ってアユなどの魚を取る鵜飼いになぞらえて考えると、司会者は鵜匠で、コメンテーターは鵜、アユが視聴率と言えるだろう。

 「コメンテーターは、鵜飼の鵜」だと私が強く感じる番組は、『バイキング』(フジテレビ系)である。
2016年以来、芸能人の不倫のニュースが頻発している中、同番組を見ていると、「男性の不倫はOKだが、女性は言語道断」という姿勢を感じる。

 例えば、「週刊文春」(文藝春秋社)が斉藤由貴と開業医男性との不倫を報じた時のこと。2人が指を恋人のようにからめあうつなぎ方をしていたり、斉藤のマンションに男性が通う姿を撮られていた。斉藤本人は記者会見を開いて、「手をつないだのは一瞬」「往診のためにマンションに来てもらった」と釈明したが、あの会見を真に受けた人は、ごく少数ではないだろうか。

 事実、会見後、斉藤と男性のキス写真、男性がパンツをかぶっている写真など、不倫の証拠とも言うべき画像が「フラッシュ」(光文社)に掲載される。それを見た坂上は、「不倫をした、しかも3回目ですよ、その上に嘘が乗るんだ」と斉藤を断罪。
確かに斉藤は独身時代、歌手の尾崎豊や俳優の川崎麻世と不倫をし、会見を開いたこともあるので、事実と言えるが、それを言うなら、金曜レギュラーの雨上がり決死隊宮迫博之だって同じである。

 「文春」に、2人の女性との不倫を報じられた宮迫は、「同じホテルに泊まったことは事実だが、肉体関係はない」と苦しい言い訳をしている。2010年にもタレント・木村まみの家に通う姿を写真週刊誌「フライデー」(講談社)に撮られていたし、斉藤と同様に不倫の“常習犯”だが、そのあたりは同番組で責められていない。宮迫が妻に「家族だから、私が助けるよ」と言われたエピソードを披露すると、妻を「芸人の妻の鑑」と絶賛するなど、坂上は「夫の不倫を許す妻が、いい女」という考えを持っているようだ。



 坂上がこういうスタイルであるので、“鵜”たちも、不倫に甘い。自身も不倫経験者で、風俗店で16歳少女から性的なサービスを受け、芸能活動を自粛したこともあるタレント・東国原英夫、「浮気は人類誕生以来行われてきたことだから、そろそろ女性は慣れて」と不倫を擁護するお笑い芸人・ブラックマヨネーズ吉田敬、「役者だから」「遊びだから」と公言する梅沢富美男など、『バイキング』のコメンテーターは、“不倫肯定派”ばかりである。
“人より稼いでいるんだから、股間の自由を認めろ、その代わり家庭を壊すつもりはない”といわんばかりの彼らにとって、許しがたいのは、“騒ぐオンナ”ではないだろうか。不倫をマスコミに暴露する女や、「不倫された、許さない」と夫を責め立てる妻が、“騒ぐオンナ”である。

 “騒ぐオンナ”の典型が、俳優の袴田吉彦と関係を持っていたことを「週刊新潮」(新潮社)に告白したグラビアアイドル・青山真麻だろう。別居していたとはいえ、袴田には妻子がいたので不倫である(その後、離婚)。会うのはいつもアパホテルで、10回の逢瀬のうち、7回はホテル代を青山が払ったものの、支払いで生じたポイントは、袴田が自分のカードにつけたことから、“アパ不倫”と名付けられた。袴田の女性への扱いにはまるで誠意が感じられず、『今夜解禁!ザ・因縁』(TBS系)で袴田が語った通り、「性欲に走ってしまった」関係だったのだろう。


 青山は、『バイキング』の取材に対し、「売名ではない」と言いつつも、「チャンスをもらった」「『しゃべくり007』(日本テレビ系)に出たい」と、袴田との関係を1つのステップと考えていることをほのめかした。

 対する袴田の元妻・河中あいは騒がない。「タウンワーク」で見つけた事務バイトをしながら、シングルマザーとして子どもを育てている河中は、『ザ・因縁』にVTR出演し、結婚生活を振り返って「世間も知らないし、何もできない子を母親にしてくれたことに本当に感謝している」と述べた。夫を責めなかった河中を、坂上や東国原は“いいオンナ”と絶賛。坂上は河中を「月曜『バイキング』のコメンテーターに」とまで言い出した。

 知人の弁護士いわく、子どものいる女性が離婚して“感謝”と言い出すのは、「この子に出会えたから、お前のことなどどうでもいい」という決別だそうだ。
河中も同じ気持ちなのかは知る由もないが、1つ言えるのは、今後も芸能活動を続けると明言している河中にとって、今が大きなチャンスであるということである(河中は早速、坂上のブログをお気に入り登録している)。

 “売名”とは、有名人男性とのセックスをネタにすることと思われがちだが、大きな意味で言えば、「誰かを利用して、自分が芸能人として前に進むこと」と言えるだろう。となると、今回売名に成功したのは、青山真麻ではなく、元妻の河中あいなのではないか。

 同情を引くという売名は、体を張るよりイメージがよくて安全である。河中を“かわいそう”“健気”と信じる……坂上をはじめとするオジサンは、案外チョロいと言えるのではないだろうか。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。
2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、最新刊は『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの