9月1日に「永い後日談のネクロニカ」というTRPGと、そのリプレイ「ネクロニカ・リプレイ 『お茶会をもう一度』 」が発売されました。
なんと少女ゾンビになって破壊しあうというTRPGです。

早速制作者に、このゲームの魅力と手軽さについてインタビューさせていただきました。


ゾンビっ子が破壊しあうTRPGは斬新ではない?

――最初表紙絵でつられたんですよ。
愛甲えめたろう(以下、愛甲) あの器械さんのイラストは、作品の方向性を分かりやすく例示したものだと思います。
神谷涼(以下神谷) 中身はもっとアレなので、表紙で関心持っていただけた方には十分満足いただける内容ですよー。
――TRPGとしては異色だと思うんですが?
愛甲 単純にシステムの問題で言うなら、決して異色ではないと考えます。戦闘でパーツが破損してゆく戦闘ゲームは過去にいくらでもあるからです。
ただし、それはどれもロボットモノだったわけですが。
神谷 ですね。ロボよりゾンビが好きだから、ゾンビでやろうって思っただけでしたし(笑)
愛甲 パーツが破損してゆくシステム自体は対して斬新ではありませんし、戦闘エリアを大まかに分割したり、カウントで行動を動かすゲームもありふれています。システムとしてはTRPGユーザーからは受け入れやすいものと思います。マシンパーツでなく、生体パーツで、無骨なロボではなく、可憐な少女の四肢が飛び散るのが普通じゃないだけで。
――システムをいかしながら、コンセプトを大幅に変えたのでしょうか。

愛甲 「コンセプトを変えた」というよりも「このシステムで一番素敵なコンセプトにたどり着いた」という方が正しいと思います。シェイプしたというよりも、ゾンビものが一番いい、やりたい。このシステムはゾンビのためにあったのだ、といった感じでしょうか。
神谷 人類滅亡後といった背景は「システム+ゾンビ」という視点に立ってから、後でついてきたものですしね。ゾンビで遊ぶゲーム → ゾンビの体が崩れて行くのを再現(再生や次ぎ足しも) → 人間はどうしよう? → もう人間邪魔だから滅んでることにしよう……こんな感じで。


オンラインセッションのススメ

――TRPGってどうやって開発するものなんでしょうか?
愛甲 基本私たちの場合、神谷さんが思いつきでゲームを考えるんですね。
コンセプト説明とか一切なしで、いきなりチャットでキャラメイクをはじめて。マンツーマンかプレイヤー2から3人ででオンセ(※オンライン・セッション)を初めてセッションが終わった段階で、参加者が「なるほど、これはおもしろい」となって。盛り上がったものにいろいろな人を巻き込んでいって、作品ができていきます。
――オンセってなんですか?
愛甲 チャットクライアントを立ち上げて、チャットを介してセッションをやる、ネット時代に適応したTRPGのプレイスタイルですね
神谷 多人数だとオフライン同様時間もスケジュールもたいへんですが、1対1や1対2なら十分平日の一晩で終わらせられますし、ごく簡単なテストなら2時間程度で終わらせられます。やろうと思えば MSNやSkypeの会議室状態でも行えますしね。
愛甲 今も、私のマシンのモニタの左半分では、何人ものプレイヤーがそれぞれにセッションを楽しんでいるところです。

――今回のネクロニカでもできるんでしょうか?
愛甲 ネクロニカはオンセの空間で作られたシステムですので基本的に対応しています。
神谷 プレイヤーが2人でサンプルキャラクター使用なら、一晩で遊べますね。
愛甲 「オンセ3倍則」という言葉がTRPG界隈には存在していまして、通常の会話で進めるセッションに比べて3倍の時間がかかるものなんですね。普通のセッションが休日等を使って3から5時間くらいの時間でやるものなので、それと同じくらいのボリュームの内容をやるならば、だいたい9から15時間かかってしまう。
――15時間!?
神谷 キャラクター作成含めたりボリュームあるシナリオをするなら2晩は必要でしょうか。
愛甲 それを平日の夜にやるので、対応できる時間なんて3時間やそこそこなんですね。
2日目、3日目になると、同じセッションの途中なのに参加できない人なんてのも出てくるわけです
――それは厳しいですね……。
愛甲 オンセの歴史はこれに対応する様々な技術の開発の歴史でした。事前にテキストを用意しておき、一気にコピペすることで時間短縮を図ったり、スケジューラーを開発したり。あとは、Skypeのボイスチャットと文字チャットを併用したり、文字だけでは伝わりづらいヘクス情報(※TRPGで使われるキャラ配置の六角形のマス目)などをネットで共有するソフトが開発されたり。
神谷 サイコロ(※TRPGは戦闘システムでサイコロを使う場合が多い)についてもIRCではボットで行えますしね。
愛甲 「むしろオフセよりもオンセの方が楽だ」という状況も生まれました。
しかし、ボイスチャットにはひとつの問題が発生しまして。
――問題?
愛甲 文字情報なら美少女と楽しく冒険できるのに、ボイスチャットだとイカツイおっさんのたどたどしい演技で萎えることがあるのです(笑)
――……あはは(笑)


オンセッションにあわせた物語のシンプル化

――オンセ自体が面白いですね。
愛甲 オンセはオフセの代替手段として始まったのですが、別々の利点があるために全く別のユーザー層を抱える別アプローチとしてのTRPGの楽しみ方として成立するようになりました。
神谷 女の子ロールプレイしまくったり、頭おかしい敵役のロールプレイするのも、オフラインじゃオンラインほどうまくはやれませんからね(笑)
愛甲 また、時間のかかる途中描写の省略、時間のかかる途中の戦闘の省略がなされてゆきました。
――省略、ですか?
愛甲 昔のファンタジーRPGだったら「依頼を受ける過程を演じて、道中を演じて、ランダムで出会う戦闘を演じて、ダンジョンに入って、トラップを突破して、途中の雑魚を倒して、宝を手に入れて、ボスと対面、丁々発止のやりとりをやって、クライマックスの戦闘、倒した後でエピローグへ……」といった長い冒険を楽しんでいたわけですが、これを記号化してしまえば、「問題が起きる」「超えるべき障害が提示される」「障害を乗り越える」「問題が解決する」に過ぎないんですね。
――物語がシステム化されている!
愛甲 セッションを楽しむなら、本当に楽しみたいポイントを前面に出して、それ以外は背景にしてしまって良い、むしろ背景にしたほうが一番楽しみたい点を楽しめる。
――背景、なるほど。
愛甲 背景にするというのは、相当にソフィスティケート(※洗練・簡略化)されたお約束化が前提になるのです。
神谷 ですので、ゾンビ少女の内面的ドラマと対話、そして戦闘がピックアップされた要素となっています。まあみんな滅んでるから、仲間と、たまに出てくる頭おかしいNPC以外に会話相手いませんしね。依頼主とかいるはずもないですし。
愛甲 一人の若者が、○○という理由で世界を救うストーリーをやるなら、昔だったら旅立つ理由を克明に描写しなければならなかった、そして旅の過程でドラマツルギーを演じて、世界を救う理由を提示しなければならなかった。ところが、ソフィスティケートされた世界では「勇者ですから」「魔王ですから」これで全てが解決するんです。
――シンプルですねえ。
愛甲 あとはキャラクターのフレーバーとして最初の時点で「これはこういうキャラで」という簡単な自己紹介するだけで、いきなりストーリーのクライマックスから入れるんですね


体が飛び散るゾンビになりたい

愛甲 あとはその戦況に則った戦いが始まりますね。戦況がまぶたに浮かぶようにすることで、単なる数字のバトルでなく、自分の気持ちを込められるようになる。
神谷 飛び散っていくパーツによる、戦況描写のそれっぽさもありますね
――リプレイで、さらっと「腕やあごがとんでいる」と書いているのは面白いですね。
愛甲 バトルパートにいたるまでの少女たちのドラマを演じるパートをやって、データでの戦いではなく、身体はゾンビでも気持ちは普通の少女のドラマを演じて、その気持を引きずって戦場に入ってもらう。
神谷 ビームを撃たれて「胴体部装甲版が破損」っていうのと「肉切りナイフで切りつけられてはらわたをこぼす」では、かなりイメージが変わりますし。
愛甲 こうして、ただの記号同士がポイントを比べあうシチュエーションにドラマを妄想することが出来る。痛みを感じることができるわけです。胸の奥にチクリと。
――心にキますね。
愛甲 そのあたりを楽しむことを目的としているので「アドベンチャーパート」「バトルパート」戦闘が終了してその後のお話を語る「エンドパート」の3パートのみで構成されています。
――背景はシンプルにまとめて、感情移入をしてもらう、という感じでしょうか。
愛甲 はい。そしてただのデータのやり取りにも気持ちを込められる。自分の分身であるから。


ゾンビ少女になろう!

――ネクロニカの魅力の一つは「キャラメイク」だと感じてます。
愛甲 ビジュアル的な意味があるパーツを組み合わせてキャラを作りますからね。データ的な強さを求めてもいいし、自分のイメージをビジュアル化してもいい。
――理想のゾンビつくれるなんて夢のようです。
愛甲 世間には認知されづらいジャンルだったのですが(笑)
神谷 ルールブック内にも 普通の本ではまず見かけないくらいアレなゾンビっ子が何体も絵で載ってますし 敵キャラも、かなりアレなのばっかしですから、きっとお気に召すはず!
愛甲 風のクロノアのあらゐよしひこさんの同人誌シリーズが、切ないゾンビ少女の内面描写をしていて、色々な人の心にゾンビ少女の可能性を植えつけたと思うんですね。その他にもステーシーとか、黄泉がえりとか。
神谷 自分もそこをスタートに置いていたのですが 人間との関係性を持ち込むと システム的にどうしてもごちゃごちゃしてしまうもので結局滅ぼしてしまった……!
神谷 ゾンビの切なさ、ってものも今は強くなりましたね。かつては本当にニッチなものでしたが
愛甲 「こんな身体じゃ、抱きしめてなんて言えない! だって、私、ゾンビだもん!」(※『魔法少女まどか☆マギカ』より)で言いたいことが通じる時代です。素晴らしい。

愛甲 ゾンビって、数だけだったり、ただの死体であったり、生きたまま死んでいて、ただ死んだまま何かに突き動かされている姿が人間的な共感を呼ぶ部分があるのではとか考えていたりします。毎日、通勤電車ですし詰めになってただ「運搬されるだけ」のゾンビな我々として、死を仮託しておはなしを進めやすい存在なのではないか、と。
――昼間は生きたゾンビ。夜はイキイキしたゾンビに。少女ゾンビになれるとはテンションあがりますね。
愛甲 上がると思います!
(たまごまご)