自殺者数は14年連続で3万人を超えた。
自殺者が右肩上がりに増えたと主張し、日本は自殺大国だとか、経済の不振のためだとか、格差社会の犠牲者だとかうんぬん、そういったことを語る書籍や知識人は多い。
「うつ」に関する本でも、自殺者の増加と絡めて社会問題やうつの話に結びつけるモノがいくつもある。
だが、冨高辰一郎『うつ病の常識はほんとうか』はそれとは全く異なる事実を組み上げる。
『うつ病の常識はほんとうか』は、うつ病にまつわる様々な定説について検証を行った本だ。
1章 なぜ自殺者は3万人を超えているのか
2章 ストレスは増えているのか
3章 どんな性格の人がうつ病になりやすいか
4章 うつ病の診断基準とは
5章 薬の適切な用量はどうやって決めるのか
自殺者のデータを検証する第1章。まず1900年から2006年までの日本の自殺者数の統計が示される。
たしかに“長期的に自殺者数は右肩上がりで増えている”。
だが、“一番大きな要因は日本の総人口が増えたこと”だと喝破するのだ。
人口が増えたので、自殺者数も増えたのだ、と。
そこで、人口10万人あたりの自殺者数を検証する。
すると“日本の自殺率はここ100年間で10万人あたり20±5人の間で、上下に揺れ動いて”はいるが、急増していないことがわかる。
とはいえ、上下の振幅の中で、現在の自殺率はけっして低いとは言えない。
冨高は、ここでもさらに公平に比較する道を進む。
人口構造の変化だ。
“ここ10年間で、10歳未満の自殺者は毎年ゼロないし1人である”といったことを考えれば、年齢ごとの人口分布の影響を考えてみる必要があるだろう。
1980年の人口構造を標準にして、それぞれの年の自殺率を再計算したグラフが示される。
“ここ100年間のトレンドとしては、標準化していない自殺率はほぼ一定であったが、標準化した自殺率は低下している”のだ。
他の先進国では自殺率の長期傾向を説明する場合、こういった“標準化した自殺率を使って説明することが当たり前”なのに、なぜか日本でやらない。
『うつ病の常識はほんとうか』の第一章では、他にも宗教観や、日本の自殺の歴史に焦点をあてて、「なぜ自殺者は3万人を超えているのか」を冷静な分析で語る。
マクロの視点から自殺率を議論するときにおさえておくべき3つのポイントを冨永はこうまとめる。
1 国レベルの自殺率を決める一番の要因は、その国の幸福度ではなく、自殺へのタブー度である。
2 自殺率が低い国とは、宗教的理由で自殺を厳しく禁じてきた国である。
3 少子高齢化が進むと粗自殺率は上昇する。
さらに冨永は、今後、日本の自殺者数は確実に減少へ向かうと予見する。
“なぜなら日本は人口減少社会に突入したからである。実際2005年から自殺のリスクの高い男性人口が減少を始めた。”
“おそらく、今後10年以内に日本の自殺者数は3万人を切るだろう。そして少子化に歯止めがかからない限り、その後も自殺者数は減少していくだろう。”
2011年の自殺者数は3万651人。前年より1039人減少した。
(米光一成)