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「技術」は教えることができても「才能」はそうはいかない

2012年7月31日 11時00分 ライター情報:杉江松恋

『小説講座 売れる作家の全技術』大沢在昌/角川書店

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プロの作家になりたい人、この指とーまーれ。
と言って手を挙げた人をよく見たら、なんと大沢在昌だったよ!
小説家としてデビューを目指す人のためのハウツー本、新人賞の獲り方を教える本ならばたくさんあるが、「親分」こと大沢在昌の教えは一味違う。『小説講座売れる作家の全技術』は、「デビューだけで満足してはいけない」という副題が物語るように、デビュー後に小説家として一生飯を食っていくことを目標とした本なのである。「プロととして生き残ることの厳しさ」について、本の中では何度も強調されている。ちょっと抜粋してみよう(太字強調は引用者)。
ーー一旦プロデビューしてしまえば、「入れる」よりも「出す」ほうが忙しくなりますから、本を読む数はどうしても減っていきます。一方で、今この瞬間、皆さんのようにプロを目指して一生懸命本を読んでいる人たちがいる。書く時間よりも読む時間をはるかに多く持ち、どんどん読んで、どんどん引き出しを増やして、アイデアを膨らましている人がいるわけです。結局、早くデビューして運がよかったのではなく、プロになって足りないことに気づいて運が悪かったということになってしまいます。
おお。
ーーあの宮部みゆきさんですら、「今度の本、売れないから」と言いますよ。そう思うことで、今書いている作品をより良くしようという気持ちを奮い立たせているんですね。自分はもう安全だ、適当に書いても一生本が売れるんだと思った瞬間から、その作家は落ちていきます。
おおお。
ーーさらに、「元Jリーガー」や「元プロ野球選手」はあっても、「元作家」という肩書きはありません。現役以外は「作家」とは呼ばないからです。仕事をしている間は作家と呼ばれるけど、仕事をしなくなったら、「元作家」ではなく「ただの人」です。いないのと同じ、存在が消えてなくなるだけです。
おおおお。
やめて、もう勘弁して、という声がどこからともなく聞こえてきたのでこの辺にしておく。ここまで言い切れるのは、大沢自身が不遇時代を体験し、それでもめげずに30年以上の長きにわたって作家として生き抜いてきたという自負があるからだろう。

もちろん本書は「心構え」だけの本ではない。それどころか、よくぞここまで丁寧に教えた、というぐらい親切な技術論が開示されているのである。いわば「小説術のオープンリソース化」だ。世に多くあるカルチャーセンターの小説講座は、これから本書を教科書として受講者に手渡すべきである。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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