しかし一方で、“勇み足”は魅力的でもあったりするわけで。傍から見たら、そのトガりっぷりこそが“愛すべき蒼さ”な場合も多く。例に挙げて申し訳ないが、昨今の千原ジュニアや吉川晃司に物足りなさを感じる古参ファンがいることも知っている。
そこで注目したい、明石家さんま。この人、稀有な存在だと思うのです。誰かを貶めたり揚げ足を取ったりするわけでもなく、それでいて笑いの質にはエッジが効かされていて。美学があるのか無いのかわからないその生き方は、芸人として純度100%の歩み方。昔も今も芸人としての立ち位置にブレが無い、唯一無二の存在だと思っていました。
……そんな事ないのです。やはり、若き明石家さんまにもアナーキーな瞬間があった模様。現在発売中の「別冊ザテレビジョン 吉本印」に収録されている復刻インタビュー、かなり注目です。
では、当時の状況を確認させてください。元はテレビジョンの1984年4月27日号における「明石家さんま・ナンデスカマン大特集」として発表された、この重要なテキスト。この時さんま氏は、若干29歳。今から振り返ると『オレたちひょうきん族』は中期の時期にあり、番組は全盛前夜と言って良い。自身の主演ドラマシリーズ『心はロンリー気持ちは「…」』は、この年の12月からいよいよスタートとなる。
上昇気流に乗りっぱなしのさんま氏ではあったが、特にこの時期は芸人として大きなステップをまさに踏み込もうとしているタイミングなのだ。自ずと、その発言は刺激的なフレーズで満載となる。
現在の明石家さんまが持つパブリックイメージからは想像もできない発言群。そこら辺りを、一つ一つ追っていきたいと思います。
――唐突ですが、今のテレビ、特にお笑い番組をどう思いますか。
「“お笑い”ちゅうもんをわかってない番組が多い思いますわ。
Ifが禁物なのは承知で。今、同様の質問を投げかけ回顧してもらったとしても、きっと同じ返答は返ってこないと思うのだ。もちろん人間なんだから、時が経つと考え方が違っているのは当然。人間性も変容しているだろう。
しかし真実は、無防備で自信に満ちているこの日の明石家さんまにあるような気がしてならない。素敵なタイムカプセルである。
――今、ウケるギャグというのは。
「リアルなものがウケるんちゃいますか。(中略)私生活からアイデアを出して、それをどう脚色していくかが勝負やと思いますよ」
同曜日、同時間帯に放送されていたライバル番組を意識している? もっと、読み進めていこう。
「もうひとつは“ひょうきん”みたいに、徹底的にバカバカしくやることですわ。見てる人が“このオッサンら、ようやるわ”と思うてくれたら、強いでんな。お客さんもそういうものを見たがってる思います」
――つまり、世間に合わせる?
「ちゃいますよ。世間に合わしてたら損しますわ。“世間”なんて、こんなええかげんなものあらしません。そんなん気にするより自分が楽しむのが先決ですわ。演技はオモロウないです。子供でも見破りまっせ。そやから、ドリフターズ見てた子が、今は“ひょうきん”に移ってきてるんですわ。今は時間をかけて練りあげたものより、思いつきのほうが強いんですわ」
まず印象に残ったのは、世間に対する不信感。
また、言うまでもなく意識していたのは“ドリフ”。このインタビューにおけるさんま氏の発言内容は、「“ひょうきん”は格好良く、“ドリフ”はそうじゃない」という当時の風潮にそのまま当てはまっている。
しかし、いわゆる“作りものの笑い”を全否定しているわけではない。
――ドラマでは「のんき君」(フジ系)をやっていますが、これからの予定は。
「ライト・コメディーをやってみたいですな。アメリカの“ソープ”みたいなヤツを……。今、喜劇はよう当たらん言うでしょ。それは、つまらんものばっかりだからで、ええもんならいけます。コメディー映画もやってみたいですわ。
まさか、『男はつらいよ』にまで矛先を向けているなんて! 確固たる自信が、その発言を尖らせていた。
最後に、自身への確信について。
――さんまさんのギャグって子供に人気があるんですが、直感でウケるギャグはわかります?
「そら、わかります。それがわからんようになったらシマイですわ。そやから“ナイス!”いうギャグも、“いいとも”が流行ってるときは負ける思うて使わなかったんですわ。タイミングを考えて使うんですな。今度は、なんの意味もなく“ハイ、どうもありがとう!”ちゅうのを流行らしまっせ」
これ、重要なテキストだと本当に思うのです。吉田豪氏に「インタビューされるの、好きじゃないですよね?」と直撃され、「好きじゃない(笑)」と即答してしまう明石家さんま。かつて「hon-nin」でインタビューが掲載された際、「明石家さんまがインタビューを受けた!」と業界が騒然になったこともあった。
自分の考えを形に残すことに抵抗を感じているからこその、生き方なのだろう。
そう考えると、このインタビュー復刻はさんま氏にとっては厄介な代物。
自身の演技を確認し「二度と観たくない」と落ち込む一方で、実は世間に強烈なインパクトを残していた『戦場のメリークリスマス』のビートたけしを思い出した。
(寺西ジャジューカ)