学生時代に好きな女の子のパンチラ、見たことある?
ぼくはねー……あるわけねーよ!
実際そういう経験ある人もいるかもしれないけどさー、そんなのマンガだよ! ラブコメだよ!
しかもベタだよ! 『BOYS BE…』か! 『ToLOVEる』か!!(どっちも好きだ!
……いいなあ。
でも、そんなマンガみたいな出来事が立て続けに起きたら、どうする?
さすがにうれしいを越して、不気味になります。
今起きていることは、事実なんだろうか?
マンガなんじゃないだろうか……。
「夢じゃない、マンガだ。そんでお前は……このマンガの主人公な」
マンガの主人公に向かって、ずばりそう言ってしまうのがこの『ゼクレアトル 神マンガ戦記』。
主人公のカン太は凡人の少年。ところがどうにもマンガのような出来事ばかりが身の回りで起き始める。
おかしい……そう思っていたところ、自分の部屋に見慣れぬ雑誌が。
開いてみると自分が体験した出来事がすべて、マンガになっているじゃないか。
なんだこれ!? 誰か見てるの?
実は、ゼクレアトルという、妖精だか悪魔だか分からない存在が、カン太の日常を漫画化していたのです。
誰が読むかといえば、第三者である「仙人」と呼ばれる存在。
雑誌の名前はずばり「仙人サンデー」。
有り得ねえぇぇぇぇ……けどもう逃げられない事実。
マンガであるからには、彼の生活は面白くなくてはいけない。
さすがに普通にすごしていても劇的な事は起きないので、ここで「主人公補正」がカン太にかかります。
いわば、いろんなイベントが起こり、フラグが立ちやすい、ということ。
学校で席替えがあると、自分の周りはクラスの美少女だらけ!
道を歩いていると、不良が絡んでいる現場に出くわす!
ほうほう、確かにそれは事件が起こり、マンガ的な展開が起きそうですね、面白そうですね。
ところがどっこい、マンガって「事件が起きれば面白い」というわけじゃないんですよ。
テンポ、間、リアクション、山場と平凡さのバランス。
色々な要素が組み合わさって、はじめて面白くなります。
カン太は普通の人間ですから、普通に悩み、普通にがんばり、ちょっとだけ事件にあいます。
彼にとってはそれは大きな出来事でも、マンガとしては失格!
この作品最大の面白さは、メタ構造にあります。
そもそもマンガの主人公が「主人公」なのなんて当たり前なんですが、それを最初に明かしてしまう。
これで自分が主人公であることを意識しながら、「マンガ的にはどうなんだろう?」と意識することになります。
加えて、この作品最初から単行本であることを(ゼクレアトルが)意識して描いています。
となると「話をどこで切るか」「どう伏線を張るか」「一巻のラストに何を持ってくるか」が重要になってきます。
毎回アッパーなクライマックスの連続では人気上位は取れない。
序盤は「主人公がマンガであることをバラされる」というびっくり展開(仙人達読者にとって)でつかみをとっても、それだけじゃ続かない。
そして、途中まではそのメタ展開がメインなので「何の漫画かわからない」。
実はこれらは、すべてゼクレアトルがつかまんとしている、最高のマンガへの地ならし。
このマンガ(現実のほうです)は一巻に4話まで入っているんですが、3話までは他のキャラも言うように、何のマンガかいまいちわからないんです。いや、人間の読者からしたら「メタネタのマンガ」なのはわかるんですが、仙人の読者からしたら「地味な日常」にすぎません。
じゃあどうすんの?
そう、マンガの売上で大事なのは、一巻のラスト。
ゼクレアトルはまず一話でメタ視点を入れて、これを滑り止めにします。
ここで続きが気になれば、引きが出来ればいい。
全部計算通りだ。
そのため、ゼクレアトルが語るシーンはちょっとしたマンガ論にもなっています。読者が面白いと感じる仕組みを組み立てるにはどうすればいいかが丁寧に説明されていて、これだけでも必見。
カン太をマンガにするゼクレアトルはかわいらしい姿で策士なキャラ。表情があって野望を持ってるキュゥべえみたいなキャラクターで、なかなかこの存在自体がユニークです。
にしても。問題は、巻き込まれて主人公になっているカン太や周囲の人間です。
これ人気下がったらどうなるの?
打ち切られたら、どうするの??
冗談じゃないよ、誰かに見られるための生活なんてまっぴらだ、終わりにしたい……けどどうすればいいんだ?!
それは!
……二巻で!!
ああもう、そこでそうくるのか、うまいな。
何が恐ろしいってこのマンガ、「読者が第三者視点で読んでいる=仙人の視点」に誘導されていることです。
マンガは主人公の一人称視点や、俯瞰して全体を見る「神の視点」と呼ばれる視点など、色々意識して描かれます。
このマンガ自体はカン太の一人称視点なんですが、気がついたら強制的に仙人視点・神の視点に読者が引っ張られるんです。
カン太が笑ったり怒ったりしても、それをマンガとして見ている、ということに毎回気付かされる。
当たり前のことなんですが、普通読んでいると作品世界に引き込まれやすくなるため、あえてすべてをメタ的に描いて弾き出している計算っぷりと緻密な構造は驚かされます。
この単行本の続きは裏サンデーで読むことができますが、単行本オリジナルの読み切りが20P載っていますので、単行本オススメします。
この「仙人サンデー」がいったい何なのか、ゼクレアトルとは何者なのかを含めて、どう収集するのか謎だらけ。
またこの「メタ構造マンガ」という設定をさらにメタ的に見ている人間の読者は、賛否両論あわせて色々な意見の出る作品でもあります。
特にマンガの構造論のあたりは、まさにそのとおりという人もいれば、イヤ違う、という人もいるでしょう。
そうやって話しあいたくなるマンガです。
「売れるマンガ」とか「ジャンル」とか、難しいけど……確実にあるよねえ。
ちなみにですが、完全にネタバレを避けたい人は帯を読まないように気をつけましょう。
あと帯は外してもダメです。
帯の下にネタバレがあります。
先に言っておくと、このマンガ一巻もすごいけど……二巻出たらやばいぜ。
阿久井真・戸塚たくす 『ゼクレアトル 神マンガ戦記』