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芥川賞卒業宣言をした小谷野敦を、芥川賞の選考委員にすればいいのに

2015年6月17日 10時50分 ライター情報:枡野浩一
小谷野敦さんが「本の雑誌」2015年5月号に『芥川賞卒業宣言』を寄稿しました。『もてない男』(ちくま文庫、1999年)がヒットして批評家として一躍有名になり、のちに小説家として芥川賞に二度もノミネートされた(2011年「母子寮前」、2014年「ヌエのいた家」)、あの小谷野敦さんが、です。敦は「あつし」と読みます。「とん」と読ませていた時期もありますが、今はまた「あつし」です。
『もてない男―恋愛論を超えて』小谷野敦/ちくま新書)

近年、批評家を兼ねた小説家として、これほど精力的に活動している書き手を私はほかに知りません。東浩紀さんが批評家でありながら三島由紀夫賞を受賞しているけれども、小谷野さんはもともと専門分野が比較文学。『久米正雄伝』『川端康成伝』『江藤淳と大江健三郎』(いずれも中央公論新社)といった、作家の評伝も続々と刊行している「文学研究のプロ」です。
『久米正雄伝ー微苦笑の人』小谷野敦/中央公論新社

ネット炎上も執筆活動の肥やし


「小谷野敦ってネットでよく揉めてる人?」程度の認識しかない方は、Amazonでも覗いてその著作の刊行ペースに驚いてください。ネットで揉めながらもその揉め事をしっかり著作の中に活かしていく小谷野さんは、「自分のまちがいをきちんと認める人」なのです。公式サイトの著作紹介コーナーに、《小谷野敦の著書訂正》と題された項目があります。どんな本にも必ず誤植やまちがいはあるものですが、それをここまで堂々と目立つ場所に表明している書き手、珍しいでしょう?

問題の『芥川賞卒業宣言』は、一部だけ取り出して私の文章力で紹介すると大いに誤解が生じると思うので、興味ある方は「本の雑誌」バックナンバーをご確認ください。選考委員を任期制にしたらどうかといった、芥川賞に対する提言も含まれています。私はあれを読んで、「ていうか、芥川賞の選考委員に小谷野敦が加わればいいのに」と思いました。
「本の雑誌」383号(2015/4/9)本の雑誌社

小谷野さんの二度目の芥川賞落選時の呪詛ツイートはニュースになりましたが、こんな茶目っ気のある朗読会をするような方ですから、なかばサービスとしてのパフォーマンスだったのかもしれないと私は思います。



なにしろ小谷野さんは最初の芥川賞落選後の2012年にすでに、『文学賞の光と影』(青土社)を刊行し、自らの「落選」経験にいったん決着をつけています。また、新聞「読書人」で定期的に栗原裕一郎さんと『芥川賞について話をしよう』と題した対談もしています(その対談は電子書籍化! )。
『文学賞の光と影』小谷野敦/青土社

村上春樹に対して最も冷静な批評家


つまり、芥川賞に限らず、文学賞に関して、どんな小説家よりも「プロ」と呼ぶにふさわしい書き手なんです。

ライター情報

枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌をとりいれた自主映画制作や漫才などにも挑戦中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。

URL:https://note.mu/masuno

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