2011年、このお正月はみなさん何をして過ごされましたか。
寒いからといって外に出なかった子はいないかな? おこたで新春特番の観賞もいいけど、こういうときにあえてアウトドアに挑戦してみるのもいいものです。

私? 私は丸焼きに挑戦してきました。いや、「モンスターハンター」じゃなくて、リアルの話ですって。
実は私、過去に何度も肉の丸焼きに挑戦している「丸焼きスト」なのです。
ほれ、このとおり!(写真左上)

今回挑戦したのは、子豚の丸焼きでした。子羊を丸焼きにしたことは過去に何度もあるのですが、子豚は初めて。丸焼きストとして、腕が鳴ります。

さて、丸焼きに必要な準備をご説明しましょう。家に豚がまるまる一頭入るようなオーブンや暖炉があるという方は日本では稀でしょうから、野外での挑戦になると思います。まずは日を決めて、どこかのキャンプ場を予約してください。自前の道具があるという方以外は、道具のレンタルをお願いできるところがいいと思います。今回は、東京都立川市にある国営昭和記念公園のバーベキューガーデンをお借りしました。バーベキューコンロは念のため、二つ借りています。

このときに注意すべきなのは、コンロの高さです。必ず確認してください。これを怠ると、間違いなく当日後悔するはずです。というか、私はしました。

次に、当日までの準備です。丸焼きする子豚はネットで注文が可能です。私が今回利用した肉屋さんは別の業種なのですが、楽天でも発注できるようですね。便利な世の中になったものです。肉は必ず冷凍便で頼み、前日到着にすること。できれば夜間配達がいいでしょう。今回は冬だったので時間がかかりましたが、冷凍便で夜8時に肉が到着した場合、室内に放置しておけば朝までには半解凍の状態に戻せます(夏場は腐敗の危険があるので、ドライアイスなどを購入して調節すべきです)。
そして、肉の次に大事なのが焼き棒と焼き台を確保することです。
丸焼きは熱源の上に肉を吊るし、遠火で炙る形で行います。そうしないと、中心部まで火が通らないからですね。結構な時間がかかるので、安定した道具が必要です。
焼き棒は、建築用の鉄筋がいいでしょう。知り合いの建築屋さんに頼むか、伝手がない人は東急ハンズなどのDIY材料を売っている店に行って入手してください。その際、長さが170センチ以上であればお店で端を少し切ってもらったほうがいいです。宅急便で扱える荷物の上限が長さ170センチまでなので、それより上だと送ることができなくなります(切ってもらうのを忘れた人はこちらの鉄筋カッターで。
次に棒を載せる台です。肉が焼けるまでだいたい3時間はかかります。その間ずっと手で持っているのは無理なので、安定した置き台が必要です。条件は、熱源の側に置いても大丈夫な素材であること。プラスチック製のものは避けたほうがいいでしょう。
試行錯誤の末私は、家庭で使う物干し台を2台購入しました。
まさかの物干し台
メーカーもまさか、洗濯物じゃなくて肉をここに吊るす人間が現れるとは思っていなかったでしょう。迷惑になるので問い合わせ窓口に「この台に肉を吊るしても大丈夫ですか」とか「焚火の側で使ってもいいですか」とか聞くのは止めてくださいね。
これらの荷物を持って、いざ出発です。

現地に着いたらまずやることは、当たり前ですが「火を熾す」「台を作る」「肉の下ごしらえをする」の3点です。あらかじめ分担を決めて、チームに分かれて準備しましょう。火の熾し方は適当にググってください。基本的に使うのは炭です。薪をじゃんじゃん燃やしてしまうと、表面黒焦げ内部は生肉という悲惨な結果になってしまうので注意(モンハンのCMは、ちょっと火力が強すぎだと思います)。

(関連写真1を見てください)
一番上が到着時の肉の形状です。なんだか可愛らしいですね。これを焼いて食べちゃうわけです。
そして組み立て前の物干し台が、2番目の写真。
だいたいの業者は、内臓を抜いた状態で肉を送ってくると思います(もしそうじゃなかった場合は、頑張って抜いてください)。つまり干物でいうところの「腹開き」状態ですね。焼き棒に肉を固定するやり方はいろいろありますが、大別すれば「開き」か「丸」になるでしょう。「開き」のほうが火を通しやすく、×状に組んだ2本の鉄棒に、4本の足を縛り付ける形で固定します。ショッカーにつかまった本郷猛のようですね。今回はより難易度の高い「丸」に挑戦しました。3番目の写真のように裂いたおなかに野菜をつっこんで、一番下の写真のとおり、皮に切れ込みをいれて香草を刺し、全体に岩塩をなすりつけました。余談ですが、作業に入る前の子豚は本当に色白で、肌はつるつるです。どんな美肌もこれにはかなわないだろうというぐらい。作業を始めるとラードが染み出してきて白い肌が薄いオレンジに染まってしまうので、これは最初にしか確認できません(あ、書き忘れていましたが、肉を固定するために針金が必要です。針金ラジオペンチを必ず持参してくださいね)。

準備した野菜は玉ねぎ、ニンニク、じゃがいも、セロリ、香草はローズマリー、タイムです。このうちローズマリーは肉の匂いを消すために必須。「ローズマリーは丸焼きストの命」と覚えておいてください。

準備はできました! さあ、子豚を縛りつけた焼き棒を焼き台に載せてみましょう。いつもこの瞬間でいちばん緊張します。オン・ザ・焼き台!

(関連写真2を見てください)
……ちょっと火から遠かったかも(写真1番上)。レンタルのバーベキューグリルの高さをきちんと聞いておかなかったための失敗です(前回借りたときに高さがちょうどよかったので油断してしまいました。今回お借りしたのは前と違うグリルだったのです)。このままだといつまで待っても火は通らないので、いろいろ試行錯誤をしてみました。炭を高く積んでみたり、針金で焼き棒を吊るしてみたりといった実験の結果、最終形態はこのようになりました(写真2番目)。2本の鉄棒を並行にし、その上に豚を横たわらせています。これを引っくり返しながら両面を焼くわけです(耳や尻尾など、焦げやすい場所にはアルミホイルでカバーをしています)。
なんだか素直に「開き」で焼いたほうがよかったんじゃないの、という心の声が聞こえてきますが、後悔なんてしないさ。歴史に「もし」は存在しないのさ!
 激しく不安になりながら豚を見つめるの図(写真3番目)。

結局時間が足りず、最終的には豚を解体してご覧のように網焼きで火を通しました(写真4番目)。あと1時間あったら丸のままで火が通ったんだけどな、残念。しかし豚なので安全第一。羊肉の場合、もう少しレアな状態でも食べられるので、やはり初心者は羊から始めるべきだと思います。
丸焼きの魅力は、やはり皮。遠火で炙られてパリッとなった皮は、家庭の調理で出すことは難しい歯ざわりで、固体の脂が一瞬にして砕けて口の中で液体に変わるという驚きを味わえます。そしてしっかりとした歯ざわりの肉。筋を除いていないので当然ながら噛み応えがあります。めいめいナイフを手に陣取って、丸焼きの肉を削ぎ切りにして食べていくと、早く火も通るし一石二鳥でしょう。第三者の目には、ナイフ片手に「うめーうめー」と騒いでいる危ない集団にしか見えないと思いますが。

そんなわけで失敗もあったけど、楽しかった今回の丸焼きでした。言い訳ではありませんが、失敗も経験値を積む上では大事なことなのです。1つ1つ経験を積み重ねてこその丸焼きスト。その失敗を元に、いつか成獣の丸焼きにも挑戦してみたいと思います。
あなたも何かを丸焼きにしてみませんか?(杉江松恋)
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