シルバー・スーツがブラック・スーツとなり、1987年の劇場公開(米国)から27年ぶりにスクリーンに復帰する新生「ロボコップ」。オリジナル版は103分で、リブート版は117分です。
もっとも14分間の延長とは思えないほど、さまざまな要素がてんこ盛りになっていて、非常に濃かったですね。

すでにネット上では「アイアンマンとバットマンを融合させたよう」と、スーツ・デザインをめぐって賛否両論が見られます。ぶっちゃけ筆者も、いやーな予感がしていました。しかし、試写を見てすっかり、その「濃さ」にやられた次第。第一印象でスルーしちゃうのは、かなーり勿体ないです。

ただ最初に断っておくと「あの鈍重に動く不格好さがラブ」「ゴア(残虐)描写なくしてロボコップなし」「殉職したのに、生前の記憶に悩まされるサイバーパンクなところがツボ」という方々は、アレって思うかもしれません。


しかし「ロボコップ」の本質はそこにはない! とあえて言ってしまいましょう。「キャラクター性」「アクション性」「社会風刺性」「ドラマ性」のどれをとっても水準以上。「バットマン ビギンズ」「スター・トレック」など、ハリウッドで流行のリブート物の中でも、かなりの完成度となっています。

ストーリーはオリジナル版をトレースしつつも、現代風に新解釈。西暦2028年(わずか14年後!)、世界各地の軍事ロボット化が進む一方で、アメリカではロボット配備禁止法が施行され、市場独占をもくろむ大企業オムニコープ社は法改正を画策。瀕死の重傷(死んでない!)を負ったデトロイト市警のアレックス・マーフィを機械の体で「職場復帰」させ、世論を扇動しようとするが・・・という内容です。


「ロボコップ」のキャラクター性、それは「半分機械・半分人間」という「異形性」にあります。いくら外観がアメコミヒーロー的でも、周囲から浮きまくっているロボコップ。自由と平等を建前とするアメリカ社会で、ヒーローが一番のマイノリティという位置づけが明瞭です。自らの人間性に悩むマーフィや、「生みの親」から邪険にされていくフランケンシュタイン性も、より強く打ち出されています。

ここがぶれてないので、バイクに乗ろうがスピーディに活劇しようが、そんなに違和感がありません。コミック・アニメ・ゲームとメディアミックス展開した本シリーズだけに、アクションシーンも過去作品からの引用が満載。
ロボット兵と模擬戦闘を行うシーンでは、思わずFPS(一人称視点シューティング)を想像してしまいました。これ、PS4でゲームになりませんかねソニーさん。普通に考えると思うんですよね、One Sonyなんだから・・・。

閑話休題。社会風刺性も世界規模でスケールアップ。冒頭でテヘラン(アメリカはイランにも軍事侵攻!)の市街地を巡回する米軍のロボット兵や無人機は、今まさに世界を飛行中の無人偵察機と被ります。
銃を突きつけつつ「危害は加えませんよ〜」と市民に呼びかける米軍の欺瞞や、その姿を衛星放送で中継するメディア、番組で世論を扇動するジャーナリストなどは、まさに現実世界の戯画化でしょう。

またオムニコープ社の現実歪曲フィールド満載の企業姿勢も、IT企業のパロディで既視感バリバリです。CEOのレイモンド・セラーズ役を「バットマン」俳優のマイケル・キートンが快演し、「ロボコップvsバットマン」という裏の構図にはグッとくること疑いなし。時に情熱的にプレゼンし、時に「スケジュールは決まってるんだから何とかしろ!」と怒鳴る様には、「あるある」と心が痛む業界人も多いのではないでしょうか。

最後に大きく強化されたのがドラマ性です。オリジナル版では希薄だった家族の存在が、リブート版では前面に打ち出されました。
機械の体になったマーフィを献身的に支える妻クララ役を「エンジェル ウォーズ」のアビー・コーニッシュが演じ、女優としての新境地を見せています。これによって生命倫理という現実的なテーマが、より際立ちました。ロボコップを支える市警の同僚陣も実に熱い! オリジナル版の白人女性ルイスから、新たに黒人男性に変更となった相棒が良い味を出してます。後半の一言が心に染みます。

こんなふうに、経済優先で他国の迷惑も顧みず突っ走るアメリカと、家族やコミュニティを大切にするアメリカ。どっちもアメリカなんですよね。


オリジナル版の監督はオランダ人のポール・バーホーベンでしたが、本作でメガホンをとったのはブラジル人で、ベルリン映画祭金熊賞の実力派ジョゼ・パジャーリ。歴史的に欧州の植民地として発展し、戦後はアメリカに裏庭扱いされている中南米の血がたぎるのでしょうか? アクション映画の顔をした、ハリウッド版「ここがヘンだよアメリカ人」といっても過言ではないでしょう。

それでもオリジナル版同様に、90%の爽快感と10%の後味の悪さにまとめています。なんだかんだいいながら、痛快娯楽作品です。ファン感涙の小ネタも満載で、ロボコップ愛に満ちあふれた、見事なリブート・コップです。いやー、良いモン見せていただきました。3月14日から全国ロードショーです。
(小野憲史)