「渡る世間は鬼ばかり」「なるようになるさ。」を手がける脚本界のクイーン・橋田壽賀子先生が理事をつとめる橋田文化財団主催の橋田賞の授賞式が、5月9日(土)、早稲田リーガロイヤルホテルの中のシャンデリアがキラキラ光る宴会場で行われた。

この賞は、「日本人の心や人と人とのふれあいを温かくとりあげてきた番組と人に対して顕彰助成するもの」で、今年は22回目。


受賞作品に関わった方々が壇上にあがり、橋田先生から表彰される。

今年は、大賞に該当者なし。橋田賞に「オリンピックの身代金〜1964年・夏」(テレビ朝日)、連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)、『戦場で書く〜作家 火野葦平の戦争~』(NHK)、『キッチンが走る!』(NHK)。脚本家・森下佳子、ジャーナリスト岸井成格、橋田賞新人賞に綾野剛、能年玲奈、橋田賞特別賞に伊東四朗が選ばれた。NHK率高いですね。

橋田先生は、最初に「今日は一年で一番いやな日です」と挨拶し、会場を爆笑の渦に。
ひとまえに出るのが好きではなく、こういう華々しい場は気がひけるらしい。
だからなのか、壇上の背後は金屏風にも関わらず、橋田先生は黄色いロングワンピースで登場。背景にとけ込んでしまいたいという気持ちの現れだろうか。橋田先生、おくゆかしい!

そうはいっても、橋田先生、作家だけに言葉は立つ。
「オリンピックの身代金」のキャスト代表で壇上にあがった竹野内豊に、客席から橋田ファミリーの泉ピン子が「いい男!」などと盛り上げると、「私の竹野内さんですから」とすかさず言い、「あまちゃん」の制作チームが壇上に上がると、「見てないんです、実は」とカミングアウトして、報道陣にネタを提供した。

この「見てない」発言(正確には、あとから、再放送で見た。
だが全部は見てないとフォローしている)を受けて、作品賞の「あまちゃん」と俳優賞の新人賞を受賞した能年玲奈は、「ぜひ、橋田壽賀子先生に『あまちゃん』を全編見てもらえるように、今日は身を引き締めてがんばりたいと思います」と挨拶。橋田先生、「実は(DVDを)もっているんですよ」と言い出した。
「私も朝ドラ書いてましたから、興味はあるんです」と。

橋田先生、朝ドラを「あしたこそ」(68年)、「おしん」(83年)「おんなは度胸」(92年)「春よ、来い」(94年)と4作も書いている。
今回、橋田賞を、朝ドラ「ごちそうさん」で受賞した脚本家の森下佳子は、橋田先生に敬意を表して、「『ごちそうさん』を書くときに、勉強のために過去の朝ドラの台本を読みました。それが橋田先生の『おんなは度胸』でした。
今読んでも古びていないし、展開に力があるし、書かれている意地悪が本当にひどい。ひどいけれど面白い! 私が上る山はここだ!と思って『ごちそうさん』を書きました」(意訳)と発言。
そうか、「ごちそうさん」の、め以子(杏)をいびりまくる小姑和枝(キムラ緑子)の原点は、「おんなは度胸」だったのか。
森下の挨拶が終わると、橋田先生は、森下のことを「おしゃれ」「天は二物を与える。才能とファンション(センス)がそろっている」と褒めた。
森下のプレゼン力、見習いたいものである。


さて、その後、新人賞で再び、能年玲奈登場。
橋田は、生・能年玲奈の、ふわっと落ちる変化球のようなふるまいを目の当たりにし、「『あまちゃん』は、あなたじゃなかったら、あんなに評判にならなかった」と評価。
能年は最後までマイペースで、独特のたっぷりした間を時々開けては、皆をドキドキさせながら、最後は「じぇじぇじぇ」で締めた。

わたくし、生「じぇじぇじぇ」、初体験。
トーク中、10秒くらい言いよどむのも、「紅白歌合戦」などで既に見ていたものの(レビュー)、生で見ると、本当にドキドキした。
能年ちゃん(あえてこういう呼び方してみます)の周辺は、まるで真空になっているように空気が違っていて、それに、かなり感動してしまった。
予定調和じゃない、何を言い出すかわからないハラハラ感がいいのだろうな。

そういえば、会場には、泉ピン子のほか、『花子とアン』で白鳥かをる子さん演じる近藤春菜に似ていると言われる角野卓造の姿も。泉、角野と橋田ファミリーが集結していたようだが、橋田先生、もしも、受賞関係者の中からファミリーに入れるとしたら、イケメンの竹野内豊か、綾野剛か(彼の作品では『ロング・グッドバイ』がお好きだそうです)か、それとも、ある意味、会場にさざ波を起こした能年玲奈だろうか。
(木俣冬)