9月20日から公開している映画「ぼんとリンちゃん」。主演は佐倉絵麻と高杉真宙、監督は「ももいろそらを」の小林啓一だ。
この映画は、21歳(本人いわく16歳と62か月)のオタク大学生女子「ぼん」と、彼女の幼なじみの18歳の浪人生オタク男子「リンちゃん」が、東京で彼氏と同棲中らしい親友「肉便器ちゃん」を助けに行く、というお話だ。
画面にまず映し出されるのは、こんな手書きの文章。

〈僕の悪い予感が当たった。
「ぼん」こと、ねえさんが初めて描いたボーイズラブ(BL)の同人誌がネットにさらされ、嘲笑の対象になっているのを僕が発見してから、約一か月が過ぎた。
 その間ねえさんはひどく落ちこんでいたのだが、突然、「肉便器と連絡がとれない! おかしい!」と発奮し、とてもやっかいなことを思いついてしまった。
 肉便器救出作戦──東京で彼氏と同棲中の親友「肉便器」の家を突撃し、彼女を連れて帰るというのだ〉

つらい。

「ぼんとリンちゃん」は、美少女ゲーム&アニメ、ボーカロイド、それからBL(腐女子)などのオタク文化をリアルに切り取った作品だ。茶化すでもなく肯定するでもなく否定するでもない、そのままその辺のオタクをぽんっと出してきたような描写が続く。本当につらい。

上京してきたぼんとリンちゃんは、作戦に協力してくれるネット友達「ベビちゃん」(モンハンで知り合った42歳男性)にお土産を持っていこうとして、アニメイトの同人誌コーナーを物色する。
甘めテイスト服に黒タイツを合わせたぼんは、ぶつぶつ言いながら同人誌を見て回る。ぼん役の佐倉は普段は美少女だが、この映画では美少女として撮られていない。
化粧っ気が薄く、カワイイと普通の中間を行ったり来たりする絶妙な顔。喋り方もボソボソしていて若干早口、ちょっと芝居がかっているし、一方的にずっと喋っている。「こういう子、アニメイトにいる! つーか私がこんなだったわ!」と叫びたくなってしまいそうな女の子なのだ。
リンちゃんは、そんなぼんの後ろをついていく。外見はオタクらしくはないが、ぼんに仕込まれて布教されてからというもの、BLにも造詣が深い。ぼんが痛烈すぎるだけで、リンちゃんも立派に「イタい」オタクだ。


アニメイトを探索し終えた2人は、ベビちゃん(美少女Tシャツ着用)と秋葉原のコンセプトカフェに行く。そこでの会話も、一度でもオフ会をしたことのある人であれば既視感で死にそうになるものだ。
「BLってどこが面白いの?」と聞かれ、長々と語り始める。リンちゃんとベビちゃんのカップリング妄想なんかもする。この、初めて会った人との探り探りのオタトークの感じや、「自分はオタクです! 腐女子なんです!」とあえて過激な表現で見せて相手との同調をはかる感じなんかが、泣きたくなるほど身に覚えがある。

ぼんは、オタクらしい下ネタを遠慮なくバンバン飛ばすし、男性の尻の穴についてアツく語りもする。
素人DTのベビちゃんを煽ったりもする。だけど、実際の行為に関しては潔癖。結婚するまでは清い体でいると決心していて、一足先に「卒業」した親友に対して複雑な思いを抱いている。
オタクらしい下ネタも、ぼんの性への嫌悪や恐怖の反映だ。「自分は女ではなく、腐女子なのだ」という予防線を張って、相手を(意識的にせよ無意識にせよ)牽制している。

そんなぼんの行動は、正義漢ぶっていて、潔癖で、幼い。
ある意味「オタクらしい」というと誤解を招くだろうか。
「肉便器救出作戦」は予想もつかない方向に向かい、ぼんは「自分勝手」「わがまま」「人の気持ちを考えろ」などの(ある面ではとても正しい)批判を受ける。それでもなお折れない、諦めないぼん。輝いている。
ぼんがそういう行動をしていられるのは、後ろにリンちゃんがついているから。リンちゃんはぼんの眩しさに惹かれ、ぼんはリンちゃんがいるから輝ける。
ふたりでひとつの輝きだ。

小林監督の演出は、長回しを多用し(登場人物の台詞は基本的に長いので、撮るのはかなり大変だったそう)、「画角を自分の肉眼にぴったり合わせて、人物や物がさもそこに存在しているかのようなスケール感や距離感を重視した」もの。オタクのオフ会を横で覗き見ているような、むしろ自分もぼんたちのオフ会に参加しているような、そんなつら面白い気持ちにさせられる。
「ぼんとリンちゃん」は新宿シネマカリテやシネ・リーブル梅田で現在公開中。新宿シネマカリテでは、毎日18時30分からの回でトークイベントが行われている(小林監督は毎回登壇)。また、小林監督による公式ノベライズも発売中だ。

終わったあと、一緒に見ていた友人に「私、ぼんみたいな喋り方してる?」と聞いてみた。ノータイムで「うん」と返ってきた。
(青柳美帆子)

リンちゃん(高杉真宙)「うわー凌辱のティロ・フィナーレ…! 妹からの返信で俺は、円環の理に導かれる……!」
予告編でチェック