今季のドラマで初回からずっと見ていてそのうちレビューしたいと思っていたものの、どうとりあげればいいのかいま一つ見当がつかなかったのが、堺雅人主演の「Dr.倫太郎」(日本テレビ系、水曜22時~)である。

なぜ見当がつかなかったのか? 一言でいうなら、とらえどころがないからだ。
「Dr.倫太郎」とくらべたら、同じく脚本家の中園ミホがメインライターを務めた医療ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)の単純明快なこと。激しい派閥争いの繰り広げられる大病院に、米倉涼子演じるフリーランスの天才外科医が切り込み掻き乱すというストーリーは痛快で、誰にもわかりやすかった。

いや、「Dr.倫太郎」でも病院内での勢力争いが描かれていないわけでない。主人公の精神科医・日野倫太郎(堺)は勤務先の慧南大学病院で、教授の宮川(長塚圭史)や副病院長の蓮見(松重豊)とたびたび対立する。理事長の円能寺(小日向文世)は、倫太郎と宮川を競わせながら人事を決めようとしているふしがある。とはいえ、倫太郎と宮川の勢力争いはこのドラマの一挿話にすぎない。


あるいは、毎回、一話で完結するエピソードが用意されているところは「ドクターX」とも共通する。そこではたとえば倫太郎が、作品の書けなくなった大御所作家に(結果的に)ふたたびペンをとらせたり(第2話)、汚職に対する刑事の内部告発に(これまた結果的に)手を貸すことになったりする(第3話)。第1話では、勤務先でのいじめが原因で自殺をはかろうとするも倫太郎から救われるOL・繭子を、近藤春菜(ハリセンボン)が好演していたのも印象深い。

だが、このドラマで一番気になるのは何といっても、倫太郎と芸者・夢乃(蒼井優)との関係だ。新橋のお座敷で知り合って以来、夢乃は倫太郎に連絡をとっては遠出に誘ったり、彼の家にやって来て突然抱いてくれと迫ったりする(ちなみにこれに対し倫太郎は「ちょっと待てちょっと待て夢乃さん」とどこかで聞いたようなセリフで制止していた)。一方で夢乃は、家族が病気で治療費が必要だとウソをついて倫太郎に300万円を借りたり、かと思えばすぐに全額返したりする。
倫太郎ばかりか円能寺を金蔓にするなど、ここだけとれば夢乃は男を手玉に取る悪女にも思える。

だが、素顔の夢乃=明良(あきら)は芸者をしているときとはまるで別人だ。倫太郎からカウンセリングさせてほしいと言われて病院を訪れても、おどおどしたまま、けっきょく受診せずに帰ってしまう。また、借金取りらしき女(高畑淳子)から常に追いかけられ、脅されてはカネを巻き上げられている。夢乃がしょっちゅう大金を必要としているのもそのためだった。

ころころと性格の変わる夢乃だが、いったい彼女は何が狙いで倫太郎に近づくのか? 借金取りの女とはどんな関係にあるのか? 第3話までにさまざまな謎を残しながら物語は進んでいった。
私がとらえどころがないと感じたのは、まさにこうしたところだ。そもそも主人公の倫太郎も、堺お得意のニヤニヤ顔で本心を隠しているような気がしてならない。実際、先輩の精神科医・荒木(遠藤憲一)からカウンセリングを受けるときには、倫太郎もここぞとばかり愚痴を漏らしていたりする。このとき倫太郎が毒舌を吐く姿は、「リーガルハイ」で堺が演じた古美門研介を彷彿とさせた。

このほかにも、倫太郎の同僚で幼馴染の外科医・百合子(吉瀬美智子)は日常的に彼の家に出入りし、料理を用意し合ったりする仲だが、結婚する気はないのだろうか? とか、倫太郎はことあるごとに「私の尊敬するコメディアンが……」とその名言や料理のレシピを引き合いに出すが、そのコメディアンは誰なのか? とか、「Dr.倫太郎」には細かな謎がいくつも用意されている。

そんなふうに謎てんこ盛りで視聴者を焦らし続けてきたこのドラマだが、5月6日放送の第4話(5月13日21時59分までこちらで無料配信中)では、ついに夢乃に関する多くの謎が解かれ、ようやく物語の方向性が見えてきた。
倫太郎の所見では、夢乃は解離性同一障碍……いわば一種の多重人格らしい(その説明でオムレツをたとえに使っていたのが上手かった)。ここから劇中では、少女時代に親から十分な愛情を受けられなかった彼女の生い立ちが描かれ、そのなかで例の借金取りの女との関係も明かされる。高畑淳子演じるるり子と夢乃の置屋のお母さん・伊久美(余貴美子)が対峙し、夢乃の秘密が解き明かされる場面は本話の一つの見せ場であった。

第4話のラストでふたたび倫太郎の家を訪ねた夢乃だが、なおも心を開こうとはせず、強がってなのか倫太郎を誘惑する。そんな彼女に倫太郎はどう対処するのか。そして夢乃と同様の境遇を経験しているらしい倫太郎は、自らのトラウマとどんなふうに向き合っていくのか。
今夜、第5話が放送されるドラマはいよいよ核心に入ろうとしている。
(近藤正高)