「オメェ草野球ばっかりやってんじゃねぇよ!」と怒鳴る、強面でスキンヘッドの男。
「先輩の付き合いなんだからしょうがねぇだろうが!」とキレる、髭面でガタイのいい男。


取っ組み合いの喧嘩を始める男たちに「ケンカやめろや!」とFUJIWARAの2人が割って入ると、スキンヘッドが怒鳴り返す。

「うるせぇな!オメェら営業で同じネタばっかりやってるらしいじゃねぇか!」

喧嘩を止める→逆にグサッとくる言葉で怒鳴られる、のルーティン。テレビ東京系『ざっくりハイタッチ』の名物企画「鬼越トマホークの喧嘩を止めよう」である。
オマエが売れたのは時代、それだけ!「ざっくりハイタッチ」鬼越トマホーク大喧嘩が引き出したお笑い福音
イラスト/小西りえこ

喧嘩を止めると指針となる言葉をもらえる


喧嘩をしていた男たちは鬼越(おにごえ)トマホークという芸歴6年目の若手漫才コンビ。2人共いかつい顔つきだが仲がとても良い。でも仲が良いだけに喧嘩も耐えず、楽屋や会議室でよく大げんかをしてしまう。

喧嘩が起きると先輩が止めに入るのだけど、この時、ボケの坂井(スキンヘッド)が先輩にも関わらず的を射た言葉で怒鳴り返す。
何度も喧嘩を止めるうちに、時には芸人として指針となる言葉を返してくることに周りが気がつく。噂は広がり、ついには他の芸人たちが「あいつら喧嘩しないかな……」と止めに入るのを待つようになった──。

楽屋裏で起きていたこの奇妙な現象を『ざっくりハイタッチ』が企画にしたのが「鬼越トマホークの喧嘩を止めよう」である。2014年11月から約3ヶ月に1回のペースで放送されて今夜が第5弾。鬼越トマホークの楽屋を別室でモニタリングし、喧嘩が始まったら誰かが止めにいって、坂井に怒鳴られて帰ってくるのが一連の流れだ。これまで23組の芸人たちが「うるせぇな!」と怒鳴られ、シュンとして帰ってきた。


ジャングルポケット斎藤(鬼越トマホークより3年先輩)に「テメェはいつもテンションでごまかしてよ、面白いことひとつも言ってねぇんだよ!」
フットボールアワー岩尾(15年先輩)に「オメェTwitterのフォロワー少なすぎんだよ!ジョイマンより少ねぇじゃねぇか!」
COWCOW多田(17年先輩)に「ギャグにストイックになってんじゃねぇよ!」「ジャカルタでしか売れてねぇだろ」

構造を単純にすれば「この芸人にキレてください」というお題の大喜利なのだが、ナイフみたいに尖っては触るものみな傷つける言葉の強度である。COWCOW多田に至っては「おまえらの代表作なんや!」「(あたりまえ体操の)DVD売上累計12万枚やぞ!」と趣旨を忘れてマジギレしてしまうほど。

「本当は思ってないと思うんですけど……」


坂井が大声で怒鳴り返した後は、相方の金野(きんの)が「本当は思ってないと思うんですけど……」とフォローをする。しかし、実はこっちの言葉のほうがキツい。

三四郎小宮(5年先輩)に
坂井:「オメェホントは真面目なくせにポンコツキャラ演じてんじゃなねぇよ!」
金野:「すいません、三四郎さんめっちゃくちゃ漫才上手くてすごいなって思うんですけど、アドリブ感出してる割にめちゃくちゃ練習してるって聞いたんで。この間、M-1の2回戦で3時間前に入って練習してたんで、正直冷めるっていうか、あまり周りにはそういうのバレないほういいじゃないかって思ってるだけだと思います」

小藪一豊(17年先輩)に
坂井:「東京かぶれやがって、気持ち悪いんだよ!」
金野:「すいません、自分のこと「大阪の田舎もん」って言ってるわりに、ファッションとかインスタグラムとか流行取り入れてて、あえてやってるのはわかるんですけど、イキってるやつバカにする割に、いま小籔さんが1番イキってるんじゃないかって思ってるだけだと思います」

千原ジュニア(21年先輩)に
坂井:「41歳の男が23,4の女 嫁にもらってんじゃねぇよ、気持ち悪いな!」
金野:「すいません、結婚はホントおめでたいことなんですけど、空港でナンパしたって聞いたんで、冷静に考えたらかなりキツいんじゃないかと思ってるだけだと思います」
坂井:「このロリコンガイコツが」

金野の「フォローにならないフォロー」は企画の第1弾の時は入っておらず、坂井が怒鳴るだけで終わりになっていた。しかし、このフォローが加わることで、坂井の一言では説明しきれない部分を金野が補足することができ、攻撃力が2倍にも3倍にも増している。
金野のフォローの後にさらに坂井がダメ押しをすることもあり、回を追う毎にフォーマットが仕上がっているのだ。
オマエが売れたのは時代、それだけ!「ざっくりハイタッチ」鬼越トマホーク大喧嘩が引き出したお笑い福音
2015年8月8日(土)第三弾ニッチェ回より
イラスト/小西りえこ

鬼越トマホークの「芸人観察眼」


鬼越トマホークの「喧嘩を止められた時の一言」は、かつて有吉弘行が自身のあだ名芸を「世間が持っているイメージを伝えているだけ」と表現していたのを思い出す。有吉弘行が「世間の目線」を代弁したのに対して、鬼越トマホークは「芸人の目線」を代弁しているように見えるのだ。

アンジャッシュ児島(17年先輩)に「もう児島いじり飽きてんだよ!」
フットボールアワー後藤(15年先輩)に「子供生まれたときのコメントめっちゃスベってたな!」(※「母子、岩尾、共に健康です!」)
ジャルジャル(7年先輩)に「シュールを盾に客から逃げるな!」

この「芸人観察眼」は、鬼越トマホークの2人が喧嘩を始める原因にも見ることができる。

・ネタ合わせ中なのに誰かと電話するな→「売れてねぇやつが売れてねぇやつに相談して何が生まれんだよ」
・バイトの飲み会に参加するな→「バイト先の女と付き合ってる芸人、賞レースの2回戦で落ちてるぞ」
・落ち目の先輩の集まりに行くな→「落ち目のやつはポンコツの後輩集めて安心してぇだけなんだよ」「阿佐ヶ谷ロフトでトークショーやりだしたらもう落ち目だぞ」

「芸人として指針となる言葉がもらえる」という前提が成立するためには、芸人目線で芸人のことをよく見ていないといけない。怒鳴り返して爆笑が起きるためには、その言葉が共感できるものでないといけない。このハードルを超える観察眼と表現力の鋭さが鬼越トマホークの武器なんだと思う。


「場外乱闘」にも注目


さて、この喧嘩を止めるフォーマット、第4弾まで続くほど完成されていると他の芸人も真似したくなるもの。番組終盤ではゲストの芸人同士が喧嘩をはじめ、それをまた別の芸人が止めて怒鳴られるという「場外乱闘」も発生する。

これまでの「場外乱闘」の白眉は第4弾のジャルジャル後藤vsさらば青春の光森田だろう。「シュールを盾に客から逃げるな」と鬼越トマホークに怒鳴られた後藤。森田の「イオンモールでスベってた」という証言に「お客さんが理解でけへんかった」と返し、「シュールを盾にした!」と喧嘩になる。そこに止めに入ったのが狩野英孝だった。
森田が「うるせぇな!」と狩野にキレる。

森田:「オマエが売れたのは時代、それだけ!」

これには納得しない狩野英孝、「めちゃめちゃ努力した!」「オンエアバトルでも1位通過した!」「465KBとった!」と反論。森田も「今のテレビにビタっとハマっただけ。運だけ。マジで運だけ」「空前のポンコツブームやから」と譲らない。この喧嘩に三四郎小宮が割って入るが、ポンコツぶりを発揮しグダグダになってしまう。


森田:「……こんなんのどこがええねん!今のテレビよ!今のテレビよ!こんなんのどこがええねん!」

芸人同士の喧嘩だったはずが、ポンコツブームにコント師が異を唱える大きな展開に。こんな現場での科学反応が成立するのも、何がどうなってもフット・ジュニア・小籔といった強者揃いのMC陣が笑いに変えてくれる安心感があってこそだ。『ざっくりハイタッチ』「鬼越トマホークの喧嘩を止めよう第5弾」は今夜深夜1時15分から。予告映像には笑い飯が怒鳴られている姿がありましたよ。

(井上マサキ)