連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第1週「常子、父と約束する」第5話 4月8日(金)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓
朝ドラの登場人物が死ぬのは金曜日「とと姉ちゃん」5話
とと姉ちゃん part1―連続テレビ小説 (NHKドラマ・ガイド) NHK出版

ととと桜


朝ドラあるある。
金曜日に登場人物が亡くなる。
「3日後、竹蔵(西島秀俊)は息を引き取りました」(ナレーション 檀ふみ)
ととこと竹蔵は亡くなる前、渾身の力をふりしぼり、常子(子役・内田未来)に遺言を残す。それはととの代わりをしてくれというものだった。
亡くなった父や長兄の代わりに戸主となった女性に作家の樋口一葉がいるが、彼女は24歳という若さでこの世を去っている(明治5年〜29年)。
10歳の少女に、ととの代わりに家族を率いてくれと言うなんて、任されるほうも重いが、頼むほうも苦しかったにちがいない。それでもきっと、ととは「世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟の綱手かなしも」の短歌から深い思いをこめて名前をつけた長女にだからこそ託したのだろう。

西島秀俊の表情から、妻と子供を残して逝かなくてならない苦渋がせつせつと伝わってきた。

表情から感情がぐいぐい迫ってきたのはここだけではない。その前の、娘達の心づくしの贈り物を見た時も。
体調が思わしくなく、毎年やっている家族そろってのお花見ができない。なんとかととに桜を見せてやりたいと考えた三人姉妹は、花の散った樹に、布でつくった花を結びつけて、ととに見せる。覆いが取れた後、桜が映るまでかなり長い間があって、それを見ている西島の表情にもじわじわきた。
吐く息が白いのは桜の季節過ぎてるのに寒いの? と思ったが、むしろ鼓動を感じさせて良かったと思う。

桜の花は5話の冒頭にも出てくる。鉄郎と三人姉妹が見ているのは、本物の桜の設定だが、これは、映画やドラマでよくある、季節感や場所感や奥行きを出すために、カメラの前に木の枝をかざすテクニックだろう。らしさを出すはずの工夫が、かえって、嘘くささを助長することもあって・・・。桜ごしの鉄郎たちにはそんな感じがしたのに比べて、中盤の子どもたちが一生懸命飾り付けた嘘の桜は、じつに美しく思えた。花の散った一本桜にもう一度花が咲くシチュエーションはおとぎ話みたいだが、大切な人のために何かする気持ちは尊く、嘘をも美しくする。
前述の、吐息の白さもそれだ。これぞフィクションの真髄。
また、布の花びらの風情から、のちにセンスのいい生活雑誌をつくるだけはある、小橋家の人々のセンスのよさ、手先の器用さがわかる気もする。ここでは脚本と美術の息がじつによく合っていた。
(木俣冬)